Cloudflare東京地裁判決文2025年11月19日

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  • 令和7年11月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 
  • 令和4年(ワ)第2388号 損害賠償等請求事件 
  • 口頭弁論終結日 令和7年8月6日
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事実及び理由

判決

  • 原告 株式会社KADOKAWA (以下「原告KADOKAWA」という。) 
  • 原告 株式会講談社 (以下「原告講談社」という。) 
  • 原告 株式会社集英社 (以下「原告集英社」という。) 
  • 原告 株式会社小学館 (以下「原告小学館」という。) 
  • 上記4名訴訟代理人弁護士 伊藤真 平井佑希 丸田憲和 前田哲男 福井健策 二関辰郎 出井甫 中島博之 
  • 被告 Cloudflare, Inc.
  • 同訴訟代理人 弁護士 二瓶ひろ子 

主文

  • 1 原告らの主位的請求をいずれも棄却する。 
  • 2 被告は、原告講談社、原告集英社及び原告小学館に対し、それぞれ1億2650万円及びこれに対する令和4年10月21日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 
  • 3 被告は、原告KADOKAWAに対し、1億2140万0928円及びこれに対する令和4年10月21日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
  • 4 原告KADOKAWAのその余の予備的請求を棄却する。
  • 5 訴訟費用は、原告講談社、原告集英社及び原告小学館に生じた全部の費用並びに原告KADOKAWA及び被告に生じた費用の20分の19を被告の負担とし、原告KADOKAWA及び被告に生じたその余の費用を原告KADOKAWAの負担とする。
  • 6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
  • 7 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1 請求

  • 被告は、原告らに対し、それぞれ1億2650万円及びこれに対する令和4年10月21日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

  • 本件は、出版社である原告らが、被告に対し、原告らが出版権を有する別紙 著作物目録記載1~4の各漫画(以下「本件著作物1」などといい、これらを「本件各著作物」と総称する。)の複製データが海賊版サイトから配信された際に、被告がコンテンツ・デリバリー・ネットワークサービス(以下「被告サービス」という。)を提供したことにより、原告らの出版権(公衆送信権)が侵害されたと主張して、各原告に対し、不法行為(主位的に民法709条、予備的に同法719条2項)に基づく損害賠償金の一部である1億2650万円及びこれに対する不法行為以後の日である令和4年10月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで同法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である(損害期間は、原告KADOKAWA及び原告講談社につき令和3年12月14日から令和4年2月28日まで、原告集英社につき令和3年1月8日から令和4年2月28日まで、原告小学館につき令和2年5月8日から令和4年2月28日までであり、以下「本件損害期間」ということがある。)。 

1 前提事実

(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。)

⑴ 当事者 

  • ア 原告らは、書籍の出版等を目的とする株式会社である。 
  • イ 被告は、インターネットセキュリティ等を業とする米国法人である。

⑵ 原告らの出版権(甲1〜4) 

  • ア Aは、本件著作物1を制作し、平成30年12月1日、原告KADOKAWAに対して本件著作物1の出版権(電磁的に記録媒体に記録された著作物の複製物を用いて公衆送信を行う権利を含む。以下同様。)を設定した。
  • イ Bは、本件著作物2を制作し、令和3年6月4日、原告講談社に対して本件著作物2の出版権を設定した。
  • ウ Cは、本件著作物3を制作し、平成27年10月15日、原告集英社に対して本件著作物3の出版権を設定した。 
  • エ D及びEは本件著作物4を制作し、Dは平成30年12月27日に、Eは平成31年2月8日に、原告小学館に対して本件著作物4の出版権を設定した。 
  • オ 本件各著作物はいずれも漫画である。 

⑶ 海賊版サイトにおけるコンテンツの配信 

  • 「F」というウェブサイト(以下、URLが「(URL省略)」であるものを「本件ウェブサイト1」、URLが「(URL省略)」であるものを「本件ウェブサイト2」といい、これらを「本件各ウェブサイト」と総称する。)の運営者(以下「本件運営者」という。)は、原告らの許諾を得ずに、本件各ウェブサイトのサーバ(以下「本件オリジンサーバ」という。)に本件各著作物の複製データを記録した(以下、複製データを「本件コンテンツ」と総称する。記録の時期は、遅くとも、本件著作物4の複製データについて令和2年4月7日、本件著作物3の複製データについて同年12月7日、本件著作物1及び2の複製データについて令和3年11月12日。)
  • 本件各ウェブサイトのエンドユーザ(日本国内のエンドユーザを含む。)は、ストリーミング配信により、原作のまま、本件各著作物を閲読することができた。

⑷ 本件各ウェブサイトにおける被告サービスの利用(甲22、乙18〜23、125、147) 

  • ア 被告は、インターネットに接続されたサーバ(以下「被告サーバ」と総称する。)を、東京及び大阪を含む世界275の都市に設置管理して、コンテンツ・デリバリー・ネットワークサービスを提供している(被告サービス)。コンテンツ・デリバリー・ネットワークサービスとは、インターネット上にキャッシュサーバを分散配置し、エンドユーザに近い経路にあるキャッシュサーバから、画像や動画などのウェブコンテンツのキャッシュデータをオリジナルのウェブサーバ(オリジンサーバ)に代わって配信する仕組みである。被告サーバはいわゆるリバースプロキシサーバであり、被告サービスの提供先であるオリジンサーバが、不特定多数のクライアントコンピュータからアクセスのリクエストを受け取る際の窓口としての役割を果たし、クライアントコンピュータからアクセスのリクエストがあった際にDNSサーバの名前解決によって示されるのはオリジンサーバのIPアドレスではなく分散配置された被告サーバのうちの一つのIPアドレスである。また、被告サーバは、オリジンサーバから受信してクライアントコンピュータに送信したデータをキャッシュデータとして公衆送信用記録媒体(以下、被告サーバの公衆送信用記録媒体については、単に「記録媒体」という。)に記録して一時的に保存する機能(キャッシュ機能)を有し、オリジンサーバに代わってキャッシュデータを配信することができた。被告のウェブサイトによれば、被告サービスにおいて、本件各ウェブサイトのように静的コンテンツで構成されるウェブサイトのキャッシュヒット率は95〜99パーセントとされている。
  • イ 被告は、遅くとも令和2年4月7日までに、本件運営者との間で、被告サービスの利用契約を締結し(以下、本件ウェブサイト1及び2の区別なく「本件利用契約」という。)、同契約に基づき、本件各ウェブサイトについて被告サービスの提供を開始した。本件運営者は、被告サービスの利用にあたり、レジストラにおいて被告をネームサーバと指定する設定をする必要があった。
  • ウ 被告サービスにより、エンドユーザに対するコンテンツの配信は次のとおり行われた。
    • (ア) エンドユーザが、本件各ウェブサイトの本件コンテンツのページ(URL)にアクセスすると、DNSサーバの名前解決により通常地理的に近接する被告サーバのIPアドレスが示され、被告サーバに、本件コンテンツの送信の要求がされる。 
    • (イ) 被告サーバに送信の要求がされた本件コンテンツのキャッシュデータ(以下「本件キャッシュデータ」という。)が記録されていない場合は、エンドユーザからの送信の要求があると、自動的に、①被告サーバから本件オリジンサーバに対して本件オリジンサーバに記録されている本件コンテンツの送信を要求し、②本件コンテンツが、本件オリジンサーバから被告サーバに対して自動的に送信され、③被告サーバから、エンドユーザへ本件コンテンツが自動的に送信される(以下「ホスト型配信」という。)。ホスト型配信がされる際、自動的に被告サーバの記録媒体に本件コンテンツが記録(キャッシュ)される(本件キャッシュデータ)。被告サーバに本件キャッシュデータが記録されている場合は、被告サーバは、エンドユーザからの送信の要求に応じ、本件キャッシュデータを自動的に送信する(以下「キャッシュ型配信」という。なお、「本件コンテンツの配信」という場合には、ホスト型配信とキャッシュ型配信を区別しないものである。)。 
    • (ウ) 本件キャッシュデータは、一定期間を過ぎると自動的に削除され、その場合にエンドユーザから本件コンテンツの送信の要求があると、再びホスト型配信により本件コンテンツが配信される。

⑸ 原告らの被告に対する米国ミレニアム著作権法(以下「DMCA」という。)に基づく通知

  • 各原告は、被告に対し、本件各著作物について、DMCA第17編512条に基づく著作権侵害通知を送付し、原告小学館の本件著作物4に関する通知は令和2年4月7日に、原告集英社の本件著作物3に関する通知は同年12月7日に、原告KADOKAWAの本件著作物1に関する通知及び原告講談社の本件著作物2に関する通知は令和3年11月12日に、それぞれ到達した(以下、同条に基づく通知を「DMCA通知」といい、原告らの上記通知を「本件通知」と総称する。)。 

2 争点

⑴ 国際裁判管轄の有無(争点1)

⑵ 不法行為の成否(争点2)

  • (主位的請求(民法709条))
    • ア 被告が公衆送信の主体に当たるか(争点2-1) 
  • (予備的請求(民法719条2項))
    • イ 関係役務提供者として被告の損害賠償責任が制限されないか(争点2-2)
    • ウ 被告が本件運営者による原告らの出版権の侵害を幇助したか(争点2-3)
  • (両請求に共通)
    • エ 本件キャッシュデータの自動公衆送信が電子計算機における著作物の利用に付随する利用として著作物を利用できる場合に当たるか(争点2-4)

⑶ 原告らの損害の発生及びその額(争点3)

3 争点に関する当事者の主張

⑴ 争点1(国際裁判管轄の有無)について

  • (原告らの主張)
    • ア 民事訴訟法3条の3第5号 本件訴えは、被告が本件各ウェブサイトについて被告サービスを提供するに当たり、被告サーバから日本国内のエンドユーザ(以下「本件エンドユーザ」という。)に対して本件コンテンツ及び本件キャッシュデータを自動公衆送信し、これにより原告らの出版権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。東京及び大阪に被告サーバが設置されていたことからすれば、被告は「日本において事業を行う者」に当たり、本件訴えは、被告の「日本における事業に関するもの」に当たる。したがって、本件訴えについて、民事訴訟法3条の3第5号に基づく国際裁判管轄が認められる。 
    • イ 民事訴訟法3条の3第8号 被告は、日本にある被告サーバから本件エンドユーザに対して本件キャッシュデータを自動公衆送信したから、加害行為地及び結果発生地は、いずれも日本である。したがって、本件訴えについて、民事訴訟法3条の3第8号に基づく国際裁判管轄が認められる。 
  • (被告の主張)
    • ア 民事訴訟法3条の3第5号 被告サーバは設備にすぎず、営業所や事業所等の事業活動の物理的拠点ではないから、本件訴えは、被告の「日本における事業に関するもの」に当たらず、民事訴訟法3条の3第5号に基づく国際裁判管轄は認められない。 
    • イ 民事訴訟法3条の3第8号 本件コンテンツ及び本件キャッシュデータの自動公衆送信は、被告サーバではなく本件オリジンサーバから行われていた。また、被告サーバは、世界の275の都市に設置されており、本件エンドユーザが必ず日本にある被告サーバから本件キャッシュデータを受信するとは限らない。したがって、民事訴訟法3条の3第8号に基づく不法行為地の国際裁判管轄は認められない。 

⑵ 争点2-1(被告が公衆送信の主体に当たるか)について

  • (原告らの主張)
    • ア 本件オリジンサーバは被告サーバのみに本件コンテンツを送信していたから、公衆によって直接受信されることを目的とした送信(公衆送信)を行っておらず、被告サーバが、本件コンテンツ及び本件キャッシュデータの公衆送信を自動的に行っていた。したがって、被告サーバは自動公衆送信装置に当たり、ホスト型配信の場合には被告サーバに本件コンテンツを入力することにより、キャッシュ型配信の場合には被告サーバの記録媒体に本件キャッシュデータを記憶することにより、本件コンテンツが送信可能化された。 
    • イ 以下の事情によれば、遅くとも被告が本件通知を受領した時点以降は、被告サーバに本件コンテンツを入力する行為及び被告サーバの記録媒体に本件キャッシュデータを記録する行為の主体は、被告サービスを提供する被告であるといえるから、同時点以降の公衆送信の主体は、被告である。
      • (ア) 本件エンドユーザに本件コンテンツ及び本件キャッシュデータを送信していたのは、本件オリジンサーバではなく被告サーバであるが、被告は、被告サーバの調達、維持及び管理を行うことで、被告サーバから本件エンドユーザに対する公衆送信をしており、本件運営者は、被告サーバに本件コンテンツを入力する行為及び被告サーバの記録媒体に本件キャッシュデータを記録する行為に関与していなかった。
      • (イ) 被告は、本件各ウェブサイトについて被告サービスを提供することで、本件運営者から対価を得ていた。 
      • (ウ) 本件各ウェブサイトの月間アクセス数に照らし、被告サービスを利用せず本件オリジンサーバのみによって本件コンテンツを含む漫画の複製データの配信を行うことは不可能であり、被告サービスは、本件各ウェブサイトの運営に不可欠であった。 
      • (エ) 被告は、原告らから本件通知を受領し、本件各著作物に係る権利侵害を認識した後も、被告サービスの提供を停止せず、漫然と被告サーバから本件コンテンツ及び本件キャッシュデータを送信した。 
    • ウ 被告は、原告らの出版権侵害について故意又は過失があるから、民法709条に基づき、原告らの損害を賠償する責任を負う。 
  • (被告の主張)
    • 本件運営者が、本件オリジンサーバに本件コンテンツを記録し、本件各ウェブサイトについて被告サービスを利用することにして、被告サーバに自動的に本件コンテンツが入力される状態を作り出したものであり、被告は、受動的に本件コンテンツ及び本件キャッシュデータを送信していたにすぎないから、被告が公衆送信の主体であったということはできない。本件運営者は、若干のホスティング費用を負担することで、被告サービスを利用せずに本件各ウェブサイトからコンテンツを配信することができたから、本件各ウェブサイトの運営に被告サービスが必要不可欠であったということはできない。後記⑶(被告の主張)アのとおり、被告は、原告らの本件通知によって、原告らの出版権の侵害を知ることができたとはいえないから、過失もない。

 ⑶ 争点2-2(関係役務提供者として被告の損害賠償責任が制限されないか) について

  • (原告らの主張)
    • ア 被告は、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(以下「情報流通プラットフォーム対処法」という。)3条1項に定める「関係役務提供者」に当たるところ、以下のとおり、同項柱書本文及び2号の要件(以下、それぞれ「柱書要件」及び「2号要件」という。)を満たすから、被告の損害賠償責任は制限されない。 
    • イ 2号要件
      • (ア) 原告らは、代理人弁護士を通じて、被告に対し、本件通知によって、本件各ウェブサイトにおける著作権の侵害を通知し、被告は、本件通知に記載されたウェブサイトを閲覧すれば、本件各ウェブサイトが海賊版サイトであり、本件各著作物に係る原告らの出版権が侵害されていることを知ることができた。 
      • (イ) 被告は、本件運営者の正確な身元情報を把握していれば、本件運営者に対して、被告サービスが原告らの出版権の侵害に利用されていないかについて確認することができた。 
      • (ウ) 以上によれば、「当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由」(情報流通プラットフォーム対処法3条1項2号)があるといえる。
    • ウ 柱書要件
      • (ア) 被告は、被告サーバから本件エンドユーザに対して本件コンテンツ及び本件キャッシュデータが送信されることを防止するため、被告サービスの提供を停止することが技術的に可能であった。
      • (イ) 仮にそうでないとしても、被告は、被告サーバから本件エンドユーザに対して本件キャッシュデータが送信されることを防止するため、措置時点のキャッシュデータの消去及び措置時点以降のキャッシュ機能の停止の措置(以下「キャッシュサービス停止措置」という。)をとることが技術的に可能であった。 
      • (ウ) 以上によれば、「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能」であった(情報流通プラットフォーム対処法3条1項柱書本文。以下、このような措置を「送信防止措置」という。)といえる。 
  • (被告の主張)
    • ア 2号要件
      • (ア) 米国ではDMCA通知の悪用が横行しているから、通知の記載をそのまま信用することができない。原告らと被告は、過去の裁判上の和解において、出版権の権利行使の枠組み(以下「本件枠組み」という。)を合意していたにもかかわらず、本件通知は、本件枠組み外で、しかも、本件枠組みに際して原告らを代理したのと違う弁護士によりされた。また、本件通知は、DMCA通知でありながら法定記載要件(DMCA512条(b)(2)(E)ただし書の「当該素材がかつて発信サイトから除去され若しくはアクセスを解除されたことがあること又は裁判所が当該素材を発信サイトから除去若しくはアクセスを解除することを命じたことがあることを確認する陳述」。以下「本件記載要件」という。)を欠いていた。このような事情に照らせば、被告は、本件通知の内容を信用することができなかった。 
      • (イ) 原告らの出版権の侵害に関し、準拠法、権利制限規定の適用の有無及び利用許諾の有無等の判断には困難を伴うところ、本件通知の当時、原告らの出版権の侵害について公権的な判断は示されていなかった。また、本件通知において、原告らは著作者の代理人とされ、著作権の侵害の記載はあるが、支分権の記載はなく、原告らの出版権についての記載もなかった。さらに、本件各ウェブサイトは、多くのコンテンツが整然と並べられ、ランキングが表示されるなど、正規の漫画配信ウェブサイトとの間で顕著な違いはなく、その表示には主に日本語が用いられていたから、被告がその内容を理解することは困難であった。そうすると、被告が本件通知にURLが記載されたウェブサイトを閲覧したとしても、原告らの出版権が侵害されていると判断することはできなかった。 
    • イ 柱書要件
      • (ア) 被告サービスには、被告サーバを利用したデータの配信以外にも、SSL(インターネット通信を暗号化することによって改ざんやなりすましを防止するセキュリティの仕組み)、定額制のDDoS攻撃対策、ウェブアプリケーションファイアウォールなどの様々なサービスが含まれているから、被告サービスの提供の停止は、過度に広範なものであり、これを正当化することは困難である。 
      • (イ) 被告は、キャッシュサービス停止措置をコンテンツ単位で行う技術的手段を有しておらず、ドメイン単位で一括して行うことになる。そのため、キャッシュサービス停止措置は、本件コンテンツ以外の本件各ウェブサイトに掲載されているコンテンツについてもキャッシュ機能を停止するもので、過度に広範なものであり、これを正当化する事情が必要となる。被告は、このような事情の蓄積を確認した上でキャッシュサービス停止措置をとったのであって、原告らの本件通知に基づいてキャッシュサービス停止措置をとることはできなかった。 
      • (ウ) 被告が被告サービスの提供の停止をし、又はキャッシュサービス停止措置をとったとしても、本件運営者は、本件オリジンサーバから本件エンドユーザに対して本件コンテンツを配信することができたから、「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能」であったとはいえない。

⑷ 争点2-3(被告が本件運営者による原告らの出版権の侵害を幇助したか)について 

  • (原告らの主張)
    • ア 被告は、リバースプロキシにより、本件オリジンサーバのIPアドレスが示されないようにするのみならず、被告サービスの利用契約の締結時に相手の身元を確認しない運用によって、本件運営者の身元を特定できないようにした。また、被告は、キャッシュサービスにより、分散配置された被告サーバからキャッシュデータを配信し、単一の本件オリジンサーバからコンテンツを送信するのと比べて大量のコンテンツの送信を可能にした。そうすると、被告が、本件各ウェブサイトについて被告サービスを提供する行為は、大規模な海賊版サイトを運営する本件運営者による原告らの出版権の侵害を、物理的及び心理的に容易にするものであって、出版権侵害の幇助に当たる。 
    • イ 前記⑶(原告らの主張)イの事情によれば、被告は、本件通知の受領により、被告サービスの提供が、原告らの出版権の侵害を容易にすることを認識することができた。そして、同ウの事情によれば、被告は、被告サービスの提供を停止することにより、被告サーバから本件エンドユーザに対して本件コンテンツ及び本件キャッシュデータが送信されることによる原告らの出版権の侵害の結果を回避することができた。また、キャッシュサービス停止措置をとることにより、少なくとも、被告サーバから本件エンドユーザに対して本件キャッシュデータが送信されることによる原告らの出版権の侵害の結果を回避することができた。そうすると、被告は、被告サービスの提供を停止する義務を負っていたか、仮にそうでないとしても、キャッシュサービス停止措置をとる義務を負っていたといえるところ、被告は、これらの義務を怠った。 
    • ウ 以上によれば、被告は、本件運営者による原告らの出版権の侵害を幇助 したといえるから、民法719条2項に基づき、原告らの損害を賠償する 責任を負う。 
  • (被告の主張)
    • ア 被告が被告サービスを提供しなくても、本件運営者は、本件オリジンサーバから本件エンドユーザに対して本件コンテンツを配信することができた。特に、ホスト型配信において被告サーバから本件コンテンツを送信する場合、被告サーバは、本件オリジンサーバから本件エンドユーザに対して情報を流す単なる筒にすぎないことから、被告が被告サービスによって、本件運営者による原告らの出版権の侵害を幇助したとはいえない。 
    • イ 前記⑶(被告の主張)アの事情によれば、被告は、原告らの出版権の侵害の結果を認識することはできなかった。また、DMCA通知の法定記載要件をローカル・ルールとして尊重し、本件通知がDMCA通知でありながら本件記載要件の記載を欠いていたことを被告の過失の判断を否定する方向で考慮すべきである。被告において、被告サービスの提供を停止し、あるいは、キャッシュサービス停止措置をとったとしても、本件運営者は、本件オリジンサーバから本件エンドユーザに対して本件コンテンツを配信することができた。この点に加え、同イの事情によれば、原告らの出版権の侵害を回避することはできなかった。
    • ウ そうすると、被告において、被告サービスの提供を停止し、又は、キャッシュサービス停止措置をとる義務を負っていたとはいえない。 

⑸ 争点2-4(本件キャッシュデータの自動公衆送信が電子計算機における著作物の利用に付随する利用として著作物を利用できる場合に当たるか)について

  • (被告の主張)
    • ア 本件各著作物は、電子計算機における利用に供されるものであり、被告は、被告サーバをウェブサイト運営者の自動公衆送信の用に供することを業として行う者である。ホスト型配信とキャッシュ型配信は不可分一体であるから、被告サーバは、本件オリジンサーバと本件エンドユーザの間にあって本件オリジンサーバの自動公衆送信を中継し、キャッシュ型配信により本件オリジンサーバから本件エンドユーザへの送信を効率的に行っている。したがって、キャッシュ型配信のための本件キャッシュデータの記録は、「送信可能化された著作物の自動公衆送信を中継するための送信を効率的に行うために、この自動公衆送信のために送信可能化された著作物を記録媒体に記録する場合」に当たる。このことは、著作権法47条の4第1項2号の典型例とされるフォワードキャッシュ(企業や大学などの団体において、団体内部のネットワークと外部のインターネットの境界にサーバを設置し、団体内部の利用者が外部のウェブページにアクセスした際に、次の利用者が当該ウェブページにアクセスする場合の送信を効率的に行うために当該ウェブページの情報を上記サーバにキャッシュとして一定期間蓄積するキャッシュ。以下、このようなサーバを「フォワードプロキシサーバ」という。)と被告サーバのようなリバースプロキシサーバにおけるキャッシュが、機能において異なるところがないことからも明らかである。そして、同号の「記録」に際して行われる自動公衆送信についても、同号による権利制限の対象となるから、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信も、権利制限の対象となる。 
    • イ 仮にそうでないとしても、リバースプロキシサーバである被告サーバは、同号が適用される典型例とされているフォワードプロキシサーバと同様の機能を有するから、キャッシュ型配信のための本件キャッシュデータの記録及びキャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、同号の場合と「同様に」、「当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合」(同項柱書)に当たる。
    • ウ 本件各著作物は漫画であって、閲読して絵画及び物語等を楽しむためのものであるのに対し、本件キャッシュデータは、通信の効率化という技術的な目的で一時的に利用されるもので、絵画及び物語等を楽しむ目的で利用されるわけではなく、一定期間の経過により自動的に消去されていた。また、被告は、本件キャッシュデータの送信による利益を得ていなかったのに対し、本件運営者は、本件キャッシュデータの配信によって広告収入を得ていたものであり、さらに、本件キャッシュデータの送信は、本件各ウェブサイトにアクセスしたエンドユーザのみを対象とするものであったから、原告らは、本件キャッシュデータの利用の対価を、本件運営者から回収すべきであるといえる。以上によれば、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らし、原告らによる本件各著作物の対価の回収の機会を喪失させるものではないから、「著作権者である原告らの利益を不当に害する」(著作権法47条の4第1項柱書ただし書)ものとはいえない。
  • (原告らの主張)
    • ア 本件オリジンサーバは、被告サーバのみに対して本件コンテンツを送信するから、公衆送信を行っていない。また、前記⑵(原告らの主張)のとおり、被告サーバから本件エンドユーザに対する本件キャッシュデータの送信の主体は被告である。さらに、キャッシュ型配信において、本件エンドユーザは、本件オリジンサーバではなく被告サーバに対して本件キャッシュデータの送信を要求し、被告サーバからこれを受信していた。そうすると、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、「送信可能化された著作物の自動公衆送信を中継するための送信」(著作権法47条の4第1項2号)とはいえない。なお、リバースプロキシサーバである被告サーバは、エンドユーザがオリジンサーバのIPアドレスではなくリバースプロキシサーバのIPアドレスに接続される点、団体の外部と内部の境界に設定されるものではない点など、フォワードプロキシサーバと機能において異なるから、フォワードキャッシュが同号の権利制限の対象となるからといって、被告サーバにおける本件キャッシュデータの記録が同号の権利制限の対象となるとはいえない。
    • イ 本件エンドユーザが被告サーバのみから本件キャッシュデータを受信して本件各著作物を閲読することからすれば、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、著作物の主たる利用というべきであり、「付随する利用」(著作権法47条の4第1項柱書本文)であるとはいえない。
    • ウ キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、膨大な数の本件エンドユーザに対して、原告らが商業的に配信している漫画について、原告らに対価を還元せずに無償で閲読させるものであり、本件各著作物の利用市場と衝突するものであるから、「著作権者である原告らの利益を不当に害する」(著作権法47条の4第1項柱書ただし書)といえる。

 ⑹ 争点3(原告らの損害の発生及びその額)について

  • (原告らの主張)
    • ア 本件各著作物の1話当たりの使用料相当額
      • (ア) 本件各ウェブサイトは無償でコンテンツを配信する悪質な海賊版サイトであり、原告らにおいて配信の品質や広告の内容の管理、コピープロテクションや改変の制限等ができないのであるから、原告らが本件運営者に配信を許諾することは考えられない。そうすると、各原告のウェブサイトにおける本件各著作物の配信料を上回る金額でなければ、原告らは本件各著作物の配信を許諾しないから、本件各著作物の1話当たりの使用料相当額は、各原告のウェブサイトにおける本件各著作物の配信料とすべきである。著作権法114条5項の立法趣旨に照らせば、本来、本件各著作物の使用料相当額は、各原告のウェブサイトにおける本件各著作物の1話当たりの配信料の2倍というべきであるが、少なくとも、同配信料(本件著作物1につき120円、本件著作物2につき150円、本件著作物3につき30円、本件著作物4につき60円)を下回ることはない。
      • (イ) 被告は、本件各著作物のうち、原告らのウェブサイトにおいて無料で配信されている話の使用料相当額を0円とすべきであると主張するが、原告らが本件各著作物の一部の話について無料で配信しているのは、原告らのウェブサイトの訪問者に対する宣伝広告のためであり、本件運営者に対して本件各著作物の一部の話の使用料を免除することは考えられない。被告は、使用料率が42〜43パーセントであると主張するが、原告らのような大手出版社が電子書籍プラットフォーム事業者と契約する場合の経費構造は、電子書籍のプラットフォーム事業者が30パーセント、作家(著作権者)が17.5パーセント(印税)、出版社が52.5パーセントであるから、被告の主張する使用料率は過小である。また、被告は、そこから著作権者に支払うべき著作権使用料を控除すべきと主張するが、被告に著作権使用料相当額が留保されることになり、不当である。
    • イ 本件各ウェブサイトにおける本件各著作物の閲覧話数
      • (ア) 本件各ウェブサイトの月間アクセス数 出版広報センター及び一般社団法人ABJが毎月定期的にSimilarWebというツール(以下、単に「SimilarWeb」という。)を使用して実施した調査(以下「本件調査」という。)によれば、令和2年5月から令和4年2月までの日本国内からの本件各ウェブサイトへの月間アクセス数は、別紙「アクセス数及び閲覧話数一覧表」の「本件各ウェブサイトアクセス数」欄記載のとおりである。 
      • (イ) 本件損害期間に閲覧された全てのコンテンツの話数 本件各ウェブサイトの1アクセス当たりの平均滞在時間が約28分で、漫画の単行本1冊を読むのに要する時間が約20〜30分、漫画の単行本1冊の掲載話数が約6〜10話であることからすれば、本件各ウェブサイトにおける1アクセス当たりの閲覧話数は、少なくとも7話である。そうすると、本件損害期間中(その始期は本件通知の受領後1か月経過後の日)に本件各ウェブサイト全体で閲覧された話数は、前記(ア)の本件各ウェブサイトのアクセス数に上記の1アクセス当たりの閲覧話数7を乗じることで算出することができ、その数は、別紙「損害額一覧表(原告ら主張)」の各C欄記載のとおりである。 
      • (ウ) 本件損害期間に閲覧された本件各著作物の話数 本件各ウェブサイトに掲載されていた漫画の話数のうち、本件各著作物の占める割合は同別紙の各D欄記載のとおりであるから、本件損害期間に閲覧された本件各著作物の話数は、前記(イ)の本件損害期間中に本件各ウェブサイト全体で閲覧された話数に上記の割合を乗じることで算出することができ、その数は、同別紙の各E欄記載のとおりである。被告は、1話当たりの使用料相当額に乗ずる閲覧話数を算定するに当たって、同じ漫画(話)の読み返しを考慮すべきであると主張するが、海賊版サイトのエンドユーザが同じ漫画(話)の読み返しをすることはない。 
    • ウ 著作権法114条3項に基づく損害額
      • 前記イ(ウ)の本件損害期間に閲覧された本件各著作物の話数に、前記ア(ア)の1話当たりの使用料相当額を乗じることにより著作権法114条3項に基づく本件損害期間の損害額を算出することができ、その額は、同別紙の各G欄のとおり、原告KADOKAWAにつき2億4142万2360円、原告講談社につき9億2980万2300円、原告集英社につき47億9209万6950円、原告小学館につき12億6760万0740円である。 
      • エ 損害額の減額に関する被告の主張に関し、キャッシュ型配信のみならず、ホスト型配信についても不法行為が成立するから、損害の算定に当たり、本件エンドユーザが本件各ウェブサイトにアクセスした際のキャッシュヒット率を考慮する必要はない。また、本件キャッシュデータの配信のみによる損害について見ても、キャッシュヒット率が99パーセントを上回っていたと考えられることからすれば、損害の算定に当たってキャッシュヒット率を考慮する必要はない。仮に被告に故意又は重過失がないとしても損害額を減額すべきではないし、原告らの出版権の侵害に対する被告の寄与が限定的であるとの点は、被告と本件運営者との間の求償関係において考慮すべき事情にすぎない。 
  • (被告の主張)
    • ア 本件各著作物の1話当たりの使用料相当額
      • (ア) 本件各著作物は、各原告のウェブサイト以外のウェブサイトでも配信されているから、本件各著作物の1話当たりの使用料相当額は、原告らの第三者に対する使用許諾料に基づいて算定されるべきである。本件各著作物を含むコンテンツを配信する事業者においてコンテンツの権利者に支払った使用料がコンテンツ配信の売上げの約42〜43パーセントであったことからすれば、第三者に対する使用許諾料は、各原告のウェブサイトにおける配信料の42〜43パーセントの範囲である。そして、著作権法114条3項は逸失利益に関する規定であるから、第三者に対する使用許諾料から、出版権者である原告らが著作権者に支払う著作権使用料相当額、具体的には上記第三者に対する使用許諾料の20~70パーセントを控除すべきである。また、本件各著作物のうち、各原告のウェブサイトにおいて無料で配信されている話数に相当する部分(本件著作物1の51話分、本件著作物2の30話分、本件著作物3の3話分、本件著作物4の最新話の先読みの場合以外の部分)は、損害額を0円として計算すべきである。 
      • (イ) 著作権法114条3項は、逸失利益の損害に関する規定であるところ、原告らの主張するように、各原告のウェブサイトにおける配信料を使用料相当額とすることは、得べかりし利益(逸失利益)ではなく得べかりし売上げを損害として回復することになり過大であるし、公衆送信権の行使に対し受けるべき金銭ではなく公衆送信に対し受けるべき金額を損害額とすることになるから、同項の文理に反するし、同条1項により算定した逸失利益より高額になるから、「最低限度の損害賠償額」を定めたとされる同条3項の立法趣旨に反する。 
    • イ 本件各ウェブサイトにおける本件各著作物の閲覧話数 原告らが主張する本件各ウェブサイトにおける本件各著作物の閲覧話数は否認する。原告らが主張する本件各ウェブサイトの平均滞在時間は12分で、漫画の単行本1冊を読むのに要する時間は1時間であること、漫画の単行本1冊の掲載話数が7話であるとはいえないことからすれば、1アクセス当たりの閲覧話数は7話より少ないはずである。各原告のウェブサイトでは、同じ漫画(話)の読み返しに際して、再度配信料を課金しない料金体系を有しているから、受けるべき金銭の額を算定するに当たっては、本件エンドユーザが同じ漫画(話)の読み返しをしていることを考慮すべきである。 
    • ウ 減額損害額の算定に際しては、①被告サービスにおけるキャッシュヒット率は95~99パーセントであったこと、②原告らの出版権の侵害について被告に故意又は重過失は認められないこと、③被告は、本件各ウェブサイトについて被告サービスを提供したにすぎず、本件各ウェブサイトの構築及び運営を行ったわけではないから、原告らの出版権の侵害に対する被告の寄与は限定的であることを考慮して、減額すべきである。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(国際裁判管轄の有無)について 

  • ⑴ 民事訴訟法3条の3第8号に基づく国際裁判管轄を肯定するためには、原則として、被告が日本国内でした行為により原告の権利利益について損害が生じたか、被告がした行為により原告の権利利益について日本国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りると解するのが相当である(最高裁平成12年(オ)929号、同(受)第780号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁参照)。
  • ⑵ これを本件についてみると、前記前提事実⑵〜⑷によれば、原告らが出版権を有する本件各著作物の複製データである本件コンテンツ及び本件キャッシュデータが被告サーバから日本国内のエンドユーザ(本件エンドユーザ)に対して自動公衆送信されたことで、原告らの出版権が侵害され、日本国内で損害が生じたという客観的事実を認めることができる。そうすると、不法行為の結果が発生した地は日本国内にあるといえる。
  • ⑶ したがって、本件訴えについて、民事訴訟法3条の3第8号に基づく国際裁判管轄が認められる。また、以上によれば、本件における準拠法は、加害行為の結果が発生した地の法である日本法である(法の適用に関する通則法17条)。 

2 認定事実

  • 前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
    • ⑴ 本件各ウェブサイトの概要(甲6、8、38)
      • ア 本件各ウェブサイトは、4082タイトル(合計12万3631話)のコンテンツ(本件コンテンツを含む。)を無料で全てのエンドユーザに配信するウェブサイトであった。このうち、本件各ウェブサイトで配信されていた本件各著作物の話数は、本件著作物1が46話、本件著作物2が141話、本件著作物3が1027話、本件著作物4が122話であった。 
      • イ 本件各ウェブサイトに掲載されている全てのコンテンツの名称欄に「Raw-Free」という記載があった。「Raw」は海賊版を意味するインターネット用語である。また、コンテンツの各頁に「(省略).com」という透かしが挿入されていた。
      • ウ 本件各ウェブサイトの言語は、上記イを除いて日本語であった。
    • ⑵ 本件利用契約(乙18〜23、47、48、125)
      • 被告は、被告サービスの利用契約締結時の本人確認手続を簡略化しており、本件利用契約の締結時も同様であった。
    • ⑶ 本件通知(甲23、49、乙72、74)
      • ア 原告小学館は令和2年4月7日に、原告集英社は同年12月7日に、原告KADOKAWA及び原告講談社は令和3年11月12日に、被告に対し、中島博之弁護士(以下「中島弁護士」という。)の名前で、本件通知を電子メールにて送付した。 
      • イ 本件通知には、本件通知がDMCAに基づく著作権侵害の通知であること、中島弁護士が原告らを代理していること、原告らが日本法人であり本件各著作物の著作者を代理していること及び本件各著作物が著作権者及び原告らの許諾なく違法に本件各ウェブサイトに掲載されていることについて、英文で記載されるとともに、原告らの正規の漫画配信ウェブサイト及び本件各ウェブサイトの中の本件コンテンツのページのURLが記載されていた。
    • ⑷ 米国裁判所による情報開示命令及び被告の対応等(甲16、乙72、73、88、89)
      • ア 米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所は、被告に対し、原告小学館に関しては令和2年6月4日に、原告集英社に関しては令和3年1月11日に、原告KADOKAWA及び原告講談社に関しては同年11月30日に、本件各ウェブサイトの運営者又は所有者を特定するに十分なすべての情報を対象とする情報開示命令を発令した(以下「本件情報開示命令」と総称する。)。被告は、本件情報開示命令に従い、本件運営者に関して保有する氏名、電子メール、住所(本件ウェブサイト1については国名のベトナムのみ、本件ウェブサイト2については実在する場所であるが本件運営者とは関係のないビールの倉庫のもの。)の情報を原告らに開示した。 
      • イ 被告が、ホスト型配信及びキャッシュ型配信における被告サーバからの自動公衆送信を停止するためには被告サービスの提供を停止する必要があり、キャッシュ型配信における被告サーバからの自動公衆送信を停止するためにはキャッシュサービス停止措置をとる必要があった。被告は、キャッシュサービス停止措置をドメイン単位で行うことはできたが、コンテンツ単位で行うことはできなかった。 
      • ウ 被告は、令和3年2月2日に本件ウェブサイト1について、令和4年3月10日に本件ウェブサイト2について、キャッシュサービス停止措置をとった。被告は、キャッシュサービス停止措置をとるに際しては、通常、裁判所の命令の有無、ウェブサイトが反復して行うものであるとの司法機関等による公権的な判断の有無、DMCA通知の送付数、ウェブサイトの運営者の応答等の客観的な事情を踏まえて判断していた。 
      • エ 被告は、令和4年3月16日に本件ウェブサイト2について、同月19日に本件ウェブサイト1について、被告サービスの提供を終了した。 
    • ⑸ 原告らと被告が過去に合意した紛争解決の枠組み(乙27)原告らと被告は、令和元年6月20日、仮処分命令申立事件(東京地方裁判所平成30年(ヨ)第22092号)において、被告サービスを利用する特定のウェブサイトにおいて原告らの著作権及び出版権が侵害されていることが疑われる事案が生じた場合、原告らが、日本の発信者情報開示仮処分手続を利用した枠組み(本件枠組み)により解決を図ることを選択することができるとしつつ、本件枠組みを選択せずに他の手段による解決を図ることを選択する権利を留保することを含む裁判上の和解をした。

 3 争点2-1(被告が自動公衆送信の主体に当たるか)について 

  • ⑴ 自動公衆送信が、装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると、その主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当である。そして、当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であり、また、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している当該装置の公衆送信用記録媒体に情報が記録されている場合には、当該記録媒体に情報を記録する者が送信の主体であるものと解される(最高裁平成21年(受)第653号同23年1月18日第三小法廷判決・民集65巻1号121頁参照)。
  • ⑵ 前記前提事実⑷ウによれば、被告サーバはインターネットに接続されることにより、本件エンドユーザの求めに応じ、被告サーバに入力された情報(ホスト型配信における本件コンテンツ)及び被告サーバの記録媒体に記録された情報(キャッシュ型配信における本件キャッシュデータ)を自動的に送信しているといえる。送信の主体が被告であるとしても本件運営者であるとしても、送信の相手方である本件エンドユーザが公衆に当たることは明らかであるから、被告サーバを用いて行われる自動送信は、公衆によって直接受信されることを目的とするものであり、被告サーバは自動公衆送信装置に当たる(著作権法2条1項9号の5)。そうすると、ホスト型配信においては被告サーバへの入力をする者、キャッシュ型配信においては被告サーバの記録媒体に記録をする者が、自動公衆送信の主体である。
    • ア そこで、まず、ホスト型配信における被告サーバから本件エンドユーザへの送信について検討するに、前記認定事実⑷ウによれば、ホスト型配信における被告サーバへの本件コンテンツの入力は、本件エンドユーザからの求めに応じ、本件オリジンサーバから被告サーバに本件コンテンツが自動送信されることにより行われている。そして、同イ及びウによれば、このような自動送信は、本件運営者が、自ら本件コンテンツを本件オリジンサーバに記録し、被告サービスを利用するための設定をすることにより可能になったものといえるから、被告サーバへの入力をする者は本件運営者であるというべきである。
    • イ 次に、キャッシュ型配信について、前記前提事実⑷によれば、キャッシュ型配信において送信される本件キャッシュデータは、ホスト型配信の際に被告サーバに入力された本件コンテンツが、被告サーバの記録媒体に自動的に記録(キャッシュ)されたものである。前記アのとおり、ホスト型配信において被告サーバに本件コンテンツを入力する者は本件運営者であるといえること、上記の記録(キャッシュ)は、被告サーバのキャッシュ機能によって自動的にされるものであることに照らせば、被告サーバの記録媒体に本件キャッシュデータを記録する者も本件運営者であるというべきである。
    • ウ 以上によれば、ホスト型配信及びキャッシュ型配信における自動公衆送信の主体は被告ではなく本件運営者であったといえる。
  • ⑶ 原告らの主張について原告らは、①被告が、被告サーバの管理等を行っているのに対し、本件運営者は、被告サーバに本件コンテンツを入力する行為及び被告サーバの記録媒体に本件キャッシュデータを記録する行為に関与していなかったこと、②被告は、本件各ウェブサイトについて被告サービスを提供することで、本件運営者から対価を得ていたこと、③被告サービスは、本件各ウェブサイトの運営に不可欠であったことを理由に、少なくとも被告が本件通知を受領した後の本件コンテンツ及び本件キャッシュデータの送信の主体が被告であったと主張する。しかし、被告サーバにおける本件コンテンツの入力及び本件キャッシュデータの記録の仕組みに照らして、被告サーバに本件コンテンツを入力した行為及び記録媒体に本件キャッシュデータを記録した行為の主体が本件運営者というべきであるのは、前記⑵説示のとおりであり、このことは、本件通知の受領の前後を通じて異なるものではないから、原告らが主張する各事情は、以上の判断を左右するものではない。
  • ⑷ そうすると、被告による出版権侵害は認められないから、原告らの主位的請求はいずれも理由がない。 

4 争点2-2(関係役務提供者として被告の損害賠償責任が制限されないか)について

  • ⑴ 前記前提事実⑶、⑷及び前記3によれば、本件運営者は、原告らの許諾を得ずに、公衆である本件エンドユーザの求めに応じ、被告サーバから本件各著作物の複製物である本件コンテンツ及び本件キャッシュデータを自動的に公衆送信したのであるから、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)による情報の流通によって、原告らの出版権(公衆送信権)が侵害されたものといえる。被告は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備である被告サーバを用いて特定電気通信役務を提供する「関係役務提供者」(情報流通プラットフォーム対処法3条1項柱書本文)に当たるから、①被告が当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があり(2号要件)、②被告が送信防止措置を講ずることが技術的に可能である(柱書要件)場合には、被告による出版権侵害の幇助による損害賠償責任は制限されないものと解される。そこで、上記①及び②を満たすかについて検討する。 
  • ⑵ 2号要件について(①)
    • ア 前記認定事実⑶のとおりの本件通知の内容からすれば、本件通知により、①日本の弁護士が通知人であり、通知人が原告らを代理し、原告らが本件各著作物の著作者を代理していること、②本件各著作物が著作権者及び原告らの許諾なく違法に本件各ウェブサイトにおいて掲載されているとして著作権侵害を通知するものであることを理解することができる。また、電子メールによる本件通知には、本件各ウェブサイト上の本件コンテンツのページのURLも記載されていたのであるから、当該ページにアクセスすれば、本件コンテンツのタイトル欄に無料の海賊版であることを示す「Raw-Free」という記載があり、各頁に本件各ウェブサイトのドメイン名の透かしが挿入されていることを、さらに、同ページを起点とすれば、本件各ウェブサイトにおいて、本件コンテンツを含む多数(4000タイトル以上)のコンテンツが全て無料で配信され、全てのコンテンツについて「Raw-Free」の記載やドメイン名の透かしが挿入されていることを読み取ることができたといえる(前記認定事実⑴)。そして、通常、これほど多数のタイトルの漫画の複製データが全てのエンドユーザに対して無料で配信されることは考え難いから、上記記載や透かしと相まって、本件各ウェブサイトがいわゆる海賊版サイトであることは一見して明らかであったといえる。
    • イ 以上によれば、被告は、通常の注意を払っていれば、被告サービスを利用する本件各ウェブサイトにおける本件コンテンツの配信により、本件各著作物に係る他人の著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることを知ることができたと客観的に考えられるから、「当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった」ということができ、2号要件を満たすといえる。
  • ⑶ 柱書要件について(②)
    • ア 情報流通プラットフォーム対処法3条1項が、特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたことによって生じた損害について、関係役務提供者の不作為を理由とする損害賠償責任を制限した趣旨は、①関係役務提供者が他人の権利を侵害する情報の流通による不作為責任を負い得る範囲を明確化することにより、当該情報に対して関係役務提供者による適切な対応を促すとともに、②過度に送信を防止する措置を行って発信者の表現の自由を不当に侵害することを抑止することにあるものと解される。そうすると、同項所定の送信防止措置とは、特定電気通信による情報の流通による権利の侵害を防止するために必要な限度において、関係役務提供者が当該措置を講ずることが技術的に可能なものを指すものというべきである。 
    • イ 本件において、ホスト型配信及びキャッシュ型配信に係る送信をいずれも防止するためには、本件各ウェブサイトに対する被告サービスの提供を停止する必要があったといえるから(前記認定事実⑷イ)、被告サービスの提供を停止することが、「技術的に可能」(同項柱書)といえるかを検討する。まず、被告サービスの提供を停止すれば、本件コンテンツ(4タイトル)のみならず、本件各ウェブサイト上の他の4000タイトル以上のコンテンツについても、被告サービスを通じた配信が停止される。しかし、前記⑵アに認定したとおりの海賊版サイトである本件各ウェブサイトにおいて、本件コンテンツ以外のコンテンツについて、権利者の許諾を得ていたとは通常考えられないところ、海賊版サイトでは、多くのコンテンツが配信されていることにより、より多くのアクセスを集め、その結果、各コンテンツを単体で配信するよりもアクセス数が増加するという関係にあるものといえる。そうすると、本件コンテンツ以外のコンテンツの配信は本件コンテンツの配信による出版権の侵害を助長するものであり、それらのコンテンツについて被告サービスを通じた配信を停止することになったとしても、まったく無関係な情報の配信を停止するものとまではいえない。また、被告サービスの提供が停止されれば、本件各ウェブサイトからの被告サービスを通じた情報の送信は、その内容を問わず、将来にわたってできなくなる。しかし、本件運営者は、本件各ウェブサイトについて、引き続き、本件オリジンサーバからコンテンツの配信をすることは妨げられない(弁論の全趣旨)から、本件運営者の表現の自由を不当に制限するものであるとはいえない。以上によれば、被告サービスの提供の停止は、ホスト型配信及びキャッシュ型配信による原告らの出版権の侵害を防止するために必要な限度の措置であったというべきであり、「技術的に可能」(同項柱書)といえる。 
  • ⑷ したがって、被告の出版権侵害の幇助による損害賠償責任は、情報流通プラットフォーム対処法3条1項の規定の適用により制限されないものといえる。 
  • ⑸ 被告の主張について
    • ア 被告は、DMCA通知の悪用が横行しているから、本件通知の記載をそのまま信用することができず、原告らの権利の侵害を知ることができたとはいえないと主張する。しかし、本件通知の記載を信用することができなかった理由として被告が指摘する、本件枠組み外の権利行使である点や本件枠組みの合意に関わったのと異なる弁護士による通知であった点については、本件枠組みが、枠組み外での解決を図ることを明示的に許容していたことに照らし、本件通知の信用性を左右するものではない。また、被告は、本件通知が本件記載要件の記載を欠いていたことも指摘するが、本件記載要件の内容に照らし、本件記載要件の記載を欠くことは、本件通知の信用性を揺るがすような不備であるとはいえない。さらに、被告は、①本件各ウェブサイトと正規の漫画配信ウェブサイトとの間で顕著な違いはなく、主に日本語が用いられていたから、被告がその内容を理解することは困難であったこと、②準拠法、権利制限規定の適用の有無及び利用許諾の有無等の判断は困難であること、③本件通知において、原告らは著作者の代理人とされ、著作権侵害の記載はあるが出版権侵害についての記載はないことを主張する。しかし、①及び②について、前記⑵アに説示したところに照らせば、日本語を理解することができなくても本件各ウェブサイトが海賊版サイトであることを理解することができたはずであり、本件通知から理解される内容を併せて検討すれば、本件各ウェブサイトにおける本件コンテンツの配信により、本件各著作物に係る著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることは十分に判断することができたというべきである。③について、本件通知に出版権についての言及がなかったとしても、前記⑵イのとおり、本件各著作物に係る著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていると判断することができたといえる以上、「他人の権利が侵害されていることを知ることができた」に当たらないということにはならない。したがって、被告の主張は、2号要件の充足に関する前記⑵の判断を左右するものではない。 
    • イ 被告は、被告が被告サービスの提供を停止したとしても、本件オリジンサーバから本件エンドユーザに対して本件コンテンツを配信することができたから、被告サービスの提供の停止は送信防止措置に当たらないと主張する。しかし、被告サービスの提供を停止すれば、特定電気通信による情報の流通による権利の侵害を防止することができたといえるのは前記⑶に説示したとおりであり、被告の主張する点は、柱書要件の充足に関する同判断を左右するものではない。被告のその余の主張も、同様に、前記⑶の判断を左右するものではない。 

5 争点2-3(被告が本件運営者による原告らの出版権の侵害を幇助したか)について

  • ⑴ 前記前提事実⑷によれば、被告サービスにより、本件運営者は多数の分散 配置された被告サーバから本件キャッシュデータを送信することが可能となったといえるところ、本件各ウェブサイトのアクセス数は最大で月間合計3億回を超え(後記7⑵ア)、これに対するキャッシュヒット率は95~99パーセントであった(前記前提事実⑷ア)のであるから、被告サービスの利用による本件オリジンサーバの負荷の分散の程度は大きく、本件運営者は、被告サービスにより、多くの配信を効率的に行うことができたものといえる。そして、被告は、被告サービスの利用契約を締結する際の本人確認手続を簡略化する方針を採用していたところ(前記認定事実⑵)、前記認定事実⑷アのとおりの本件情報開示命令に対する開示結果に照らせば、本件利用契約に際して何らの本人確認手続が行われなかったものと推認され、これを覆す的確な証拠は見当たらない。そうすると、本件運営者は、オリジンサーバのIPアドレスが明らかにならないというリバースプロキシが一般に備える匿名性に加え、本件利用契約に関する法的な開示手続がされたとしても権利行使を受けるおそれがないという強度な匿名性が確保された状況下で、上記のような効率的な配信をすることができたものといえる。以上によれば、被告は、本件各ウェブサイトについて被告サービスを提供することにより、本件運営者による原告らの出版権の侵害を容易にしたということができ、これは、本件運営者による原告らの出版権の侵害の幇助行為に当たるといえる。 
  • ⑵ 前記4⑵に説示したところによれば、被告は、本件通知により、本件各著作物に係る著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることを知ることができ、同⑶に説示したところによれば、被告は、被告サービスの提供を停止することによって、原告らの出版権の侵害を回避することが可能であったといえる。そして、本件通知の受領から被告サービスの提供を停止するまでに必要な期間については、本件通知の受領後、その内容を確認して権利の侵害を判断し内部的な手続をするために必要な期間を考慮し、1か月と認めるのが相当である。以上に照らせば、被告は、本件通知の受領から1か月を経過した時点(以下「本件時点」という。)で、被告サービスの提供を停止することができたと認められるから、同時点で被告サービスの提供を停止する義務を負うところ、これを怠ったものといえる。
  • ⑶ したがって、被告は、本件時点以降、本件運営者による原告らの出版権の 侵害を過失により幇助したものと認められる。 
  • ⑷ 被告の主張について被告は、DMCA通知の法定記載要件をローカル・ルールとして尊重し、本件通知がDMCA通知でありながら本件記載要件の記載を欠いていたことを、被告の過失の判断を否定する方向で考慮されるべきであると主張する。本件記載要件は、DMCA通知に基づくサービス・プロバイダのコンテンツの削除義務及び責任制限に関する要件の1つで、オリジンサーバからの侵害コンテンツの削除を内容とするものであるところ(乙74)、被告の主張によれば、その趣旨は、オリジンサーバから侵害コンテンツが除去されていない場合には、CDNサーバが当該コンテンツのキャッシュデータを削除しても、再度のアクセスにより当該コンテンツのキャッシュデータが再び作成されてしまうことから、キャッシュデータを削除しても意味がないことを理由とするものである。本件においては、単なるキャッシュデータの削除ではなく、被告サービスの提供の停止又はキャッシュサービス停止措置が問題となっているのであるから、本件オリジンサーバから本件コンテンツが削除されているか否かは関わりがなく、本件記載要件についての上記趣旨は妥当しない。被告の主張する点を考慮しても、本件において、被告の過失を否定すべきことにはならない。また、被告は、被告サービスの提供を停止しても本件オリジンサーバから本件エンドユーザに対して本件コンテンツが配信される結果を避けることができなかったことから結果回避可能性がなかったと主張する。しかし、被告サービスの提供を停止すれば、ホスト型配信及びキャッシュ型配信による出版権の侵害の結果を回避することができるのは前記4⑶及び前記⑵に説示したとおりであるから、被告の上記主張を採用することはできない。 

6 争点2-4(本件キャッシュデータの自動公衆送信が電子計算機における著作物の利用に付随する利用として著作物を利用できる場合に当たるか)について 

  • ⑴ 被告は、キャッシュ型配信において本件キャッシュデータを自動公衆送信することによる本件各著作物の利用は、著作権法47条の4第1項2号又は同項柱書により著作物を利用することができる場合に当たり、出版権の侵害に当たらないと主張する。
    • ア 著作権法47条の4第1項が、電子計算機における著作物の利用に付随する利用等について権利制限の対象とした趣旨は、デジタル・ネットワーク技術を利用して行われる著作物利用のうち、著作物の主たる利用行為に付随する利用行為について著作権者に独立した対価回収機会を与える必要がないとの点にある。そうすると、同項2号の「記録」に際して行われる著作物の利用については、同号の目的に照らして必要と認められる限度で、いずれの方法によるかを問わず権利制限の対象となるものと解され、例えば、フォワードキャッシュサーバが、利用者からのアクセスに備えて利用者からのアクセスがされる前に外部のウェブページにコンテンツの送信を要求し、自動公衆送信されたコンテンツを記録(キャッシュ)する場合など、「記録」に際して自動公衆送信が行われる場合には、その自動公衆送信も権利制限の対象となるというべきである。
    • イ そこで、まず、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録が著作権法47条の4第1項2号の場合に該当するかについて検討する。被告サーバは、インターネットに接続され、公衆である本件エンドユーザの求めに応じて自動的にコンテンツの送信を行う自動公衆送信装置であり、被告は、被告サーバを用いて他人である本件運営者に被告サービスを業として提供していたから、「自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者」(著作権法47条の4第1項2号)といえる。次に、前記3⑵アによれば、本件オリジンサーバから被告サーバまでの本件コンテンツの送信の主体も本件運営者といえるから、本件オリジンサーバから本件エンドユーザへの本件コンテンツの送信は本件コンテンツの自動公衆送信であるといえる。また、前記前提事実⑷ア、ウのとおり、被告サーバは、キャッシュ機能を有するリバースプロキシサーバとして、本件オリジンサーバと本件エンドユーザの間に存し、本件オリジンサーバから本件エンドユーザへの自動公衆送信を中継するものである。そして、被告サーバの記録媒体への本件キャッシュデータの記録は、次に同じコンテンツの送信の要求がされた際に本件オリジンサーバへの再度のアクセスを不要とすることにより、送信を効率化するものであるから、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録は、「自動公衆送信を中継するための送信を効率的に行うために送信可能化された著作物を記録媒体に記録する場合」(同号)に当たるといえる。
    • ウ もっとも、前記3⑵のとおり、被告は、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録の主体であるとはいえないから、「自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が・・・記録する場合」(著作権法47条の4第1項2号)には直ちに当たらない。しかし、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録について、著作権者に独立した対価回収機会を与える必要がないことは、その主体が被告であっても本件運営者であっても、変わるところはない。そうすると、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録は、同項2号「に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を…効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合」に「必要と認められる限度」の利用であって、同項柱書本文による権利制限の対象となるものというべきである。そして、前記アに説示したところに照らせば、同号の「記録」に際して自動公衆送信が行われる場合に同号による権利制限の対象となるのと同様に、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信が、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録に際して行われるといえる場合には、同項柱書本文による権利制限の対象となるものと解される。 
    • エ そこで、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信が、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録に際して行われるものといえるかについて検討する。本件キャッシュデータの自動公衆送信は、本件キャッシュデータが被告サーバに記録された後、次に本件エンドユーザから同じコンテンツの送信の要求がされた際に、同エンドユーザに対してされるものであるから、本件キャッシュデータの記録に際して本件キャッシュデータの自動公衆送信がされるものではない。また、実質的にも、本件キャッシュデータの記録は、本件各著作物の主たる利用行為(閲読)に付随する利用として著作権者に独立した対価回収機会を与える必要がないのに対し、本件キャッシュデータの自動公衆送信は、本件エンドユーザによる本件各著作物の閲読の機会を増加させるという意味で、独立した著作物の利用行為に他ならないから、これについて著作権者に対価回収機会を与える必要がないということはできない。そうすると、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信が著作権法47条の4第1項柱書本文の「付随する利用に供することを目的とする場合」に当たるということはできない。
    • オ 被告の主張について被告は、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、著作権法47条の4第1項2号の「記録」に際して行われる自動公衆送信又は同項柱書本文の「付随する利用に供することを目的とする場合」の利用として、権利制限の対象となると主張する。しかし、同項により権利制限の対象となる利用行為は、著作権者に独立した対価回収機会を与える必要がない利用行為であると解すべきであり、本件キャッシュデータの自動公衆送信がこれに当たらないのは上記説示のとおりである。
  • ⑵ 仮に、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信が、著作権法47条の4第1項2号ないし同項柱書本文の場合に当たるとして、同項ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たるといえるかについて、念のために検討する。
    • ア 本件各著作物は漫画であり、文章及び絵画によって思想又は感情を創作的に表現したものであるから、読者がこれを閲読することを通じて、その思想又は感情を自ら享受することを本来的な目的とするものであり、原告らによる有償の電子配信を目的として、著作権者から原告らに対する出版権が設定されていたものである。他方、本件キャッシュデータの自動公衆送信が、本件各著作物の閲読の機会を増加させるものであるのは前記⑴エに説示したとおりであるところ、原告らの許諾を得ることなく、本件キャッシュデータが自動公衆送信されることにより、本件エンドユーザは無償で本件各著作物を閲読することができたものである。加えて、前記5⑴のとおり、被告サービスの提供にあたって何らの本人確認手続も行われないことにより、本件キャッシュデータの自動公衆送信は、本件運営者から対価回収することが実質上不可能な状況下で行われたものである。 
    • イ 以上のとおりの本件各著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らせば、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信による本件各著作物の利用を権利制限の対象とすることにより、「著作権者の利益を不当に害する」(著作権法47条の4第1項柱書ただし書)といえる。したがって、本件キャッシュデータの自動公衆送信については、同項柱書本文による権利制限の対象とはならない。
    • ウ これに対し、被告は、原告らは、本件キャッシュデータの利用の対価を本件運営者から回収すべきであるから、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たらないと主張する。しかし、以上に説示したところに照らせば、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信により、原告らが本件各著作物の利用の対価を回収する機会を失ったというべきであるのは明らかであり被告の主張を採用することはできない。
  • ⑶ 以上によれば、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信について、著作権法47条の4第1項の規定による権利制限の対象となるとはいえない。 

7 争点3(原告らの損害の発生及びその額)について

  • ⑴ 本件各著作物の1話当たりの使用料相当額
    • ア 第三者が運営する電子書籍ストアウェブサイトで漫画のコンテンツが配信される場合、出版権者は、コンテンツの使用許諾料として、電子書籍ストア事業者がエンドユーザから得た配信料の売上げに使用料率を乗じた金額を得ることが一般的であるところ(甲89、弁論の全趣旨)、本件各ウェブサイトにおいては、本件コンテンツを含むコンテンツがエンドユーザに無償で配信されているから、配信料の売上げは観念できない。なお、本件事業者は本件各ウェブサイトに出稿された広告に係る広告料を得ていることがうかがわれるが、その金額も不明である。そこで、本件における出版権の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、本件各著作物をウェブサイトで配信した場合に想定される配信料に相当な使用料率を乗じて算出される1話当たりの使用料相当額に、本件エンドユーザの閲覧話数を乗じる方法により算定するのが相当である。
    • イ 想定される配信料 原告らは、各原告のウェブサイトで本件各著作物を配信しており、その際の配信料(1話ごとの個別課金)は、本件著作物1につき120円、本件著作物2につき150円、本件著作物3につき30円、本件著作物4につき60円である(甲9〜12)。本件各著作物をウェブサイトで配信した場合に想定される配信料が上記金額と異なることをうかがわせる証拠もないから、これらの金額をもって想定される配信料と認めるのが相当である。
    • ウ 相当な使用料率 本件各著作物を含むコンテンツを配信するプラットフォームを提供する株式会社Amazia、株式会社パピレス及び株式会社ビーグリーの各有価証券報告書(乙196、198、212)によれば、これらの会社がコンテンツの権利者に支払った使用料がコンテンツ配信料の売上げの約42〜43パーセントであったと推計することができる。そして、原告らは、過去の使用許諾契約における本件各著作物の使用料率を明らかにしないから、原告らの過去の使用許諾契約における本件各著作物の使用料率は42〜43パーセントであると認めるのが相当である。また、「電子書籍ビジネス調査報告書2018」(甲89。株式会社インプレス発行)には、電子書籍ストアで電子書籍を配信(個別課金や月額課金型)する場合の価格構造の主要な例として、課金システムを有する電子書籍ストア事業者が30~35パーセント、取次事業者が5~10パーセント、出版社・コンテンツホルダーが55~65パーセントという割合で電子書籍の売上額が配分されることが記載され、これによれば、取次事業者を介在させない場合の出版社の配分は55~70パーセントであることが理解できる。そして、海賊版サイトである本件各ウェブサイトでは、アクセスしたエンドユーザがいつでも無償で本件各著作物を閲読することができ、通常の電子書籍ストアが備えるコピープロテクションを備えておらず(弁論の全趣旨)、コンテンツの各頁に「(省略).com」という透かしが挿入されているのであるから(前記認定事実⑴イ)、原告らが、本件運営者に対し、通常の電子書籍ストアの事業者と使用許諾契約を締結する場合と同様の水準の使用料で、本件コンテンツの配信を許諾することはあり得ない。そこで、以上に認定したとおりの原告らの使用許諾契約における本件各著作物の使用料率、一般に電子書籍ストアで電子書籍を配信する場合の価格構造に加え、本件における侵害の態様、出版権の侵害を前提とした対価の認定であることを含む一切の事情を考慮すれば、本件各著作物の相当な使用料率を80パーセントと認めるのが相当である。
    • エ 1話当たりの使用料相当額 以上によれば、本件各著作物の1話当たりの使用料相当額は、想定される配信料(前記イ)に80パーセント(前記ウ)を乗じた別紙損害額一覧表(裁判所認定)の「1話当たりの使用料」欄記載の金額と認めるのが相当である。
    • オ 当事者の主張について
      • (ア) これに対し、原告らは、本件各ウェブサイトは悪質な海賊版サイトであり、各原告のウェブサイトにおける配信料を上回る金額でなければ、本件各著作物の配信を許諾しないとして、使用料相当額は原告らのウェブサイトにおける配信料と同額であると主張する。しかし、本件各ウェブサイトが悪質な海賊版サイトであること及び出版権者の権利が侵害されたことをも考慮した上で、客観的に相当と認められる使用料相当額を上記のとおり認定するものであり、原告らの主張を採用することはできない。また、原告らは、有価証券報告書に基づいて推計される原告らが過去に締結した使用許諾契約の使用許諾料は過小であると主張するが、原告らが自らの使用許諾料に関する証拠を提出しない以上、前記ウのとおりと認めるのが相当である。
      • (イ) 被告は、相当な使用料を算定するにあたり、原告らが著作権者に支払う著作権使用料を控除すべきであると主張する。しかし、出版権(公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額は、出版権者が受けるべき使用料であるから、出版権者が支払う著作権使用料を控除する理由はないし、実質的にも、被告は、公衆送信権を専有する出版権者に対してのみ公衆送信権侵害の損害賠償責任を負い、別途著作権者に対して公衆送信権侵害の損害賠償責任を負うものではないから、著作権使用料を控除しなくても不当ではない。また、被告は、本件各著作物のうち、原告らのウェブサイトにおいて無料で配信されている話の使用料相当額を0円とすべきであると主張する。原告らは、各原告のウェブサイトにおいて本件各著作物の一部の話(本件著作物1の51話分、本件著作物2の30話分、本件著作物3の3話分、本件著作物4の最新話の先読みの場合以外の部分)を無料で配信しているが(甲9〜12)、これは、各原告のウェブサイトの訪問者に対する宣伝広告のための措置であるから(弁論の全趣旨)、この事実をもって、受けるべき金銭の額を算定するに際して、想定される配信料を0円とすべきであるとはいえない。
  • ⑵ 本件各ウェブサイトにおける本件各著作物の閲覧話数
    • ア 本件各ウェブサイトの月間アクセス数 出版広報センター及び一般社団法人ABJによるSimilarWebを使用して実施した調査(本件調査)の結果、令和2年5月1日から令和4年2月28日までの日本国内から本件各ウェブサイトへの月間アクセス数が別紙アクセス数及び閲覧話数一覧表の「本件各ウェブサイトアクセス数」欄各記載のとおりであることが推計された(甲6、13、88)。そうすると、本件損害期間の始期のうち最も早い日である令和2年5月8日から本件損害期間の終期である令和4年2月28日までの本件各ウェブサイトの月間アクセス数の合計は、同別紙の「月間アクセス数」欄各記載のとおりであると認められる。
    • イ 各原告の損害期間のサイト全体の閲覧話数 本件調査の結果、本件各ウェブサイトにおける1アクセス当たりの平均滞在時間が約28分であると推計されたこと(甲6、88)、漫画の単行本1冊を読むのに要する時間は平均約45分であり、単行本1冊に掲載されている話数が約6〜10話であると認められること(甲6、乙167)を踏まえると、1アクセス当たりの閲覧話数は5話と認めるのが相 当である。(計算式)28÷45×8(1冊当たりの話数の中央値)=4.97そうすると、サイト全体の月間閲覧話数は、前記アの月間アクセス数に上記1アクセス当たりの閲覧数(5話)を乗じることにより、同別紙「月間閲覧話数」欄のとおり算出することができる。さらに、月間閲覧話数のうち各原告の損害期間に対応する期間分を合計すると各原告の損害期間のサイト全体の閲覧話数を算出することができ、その数は、同別紙の「合計」の各原告欄記載のとおりと認められる(一月に満たない月は日割り)。
    • ウ 本件各著作物の閲覧話数 本件各ウェブサイトで配信されていたコンテンツ(いずれも12万3631話。前記認定事実⑴ア)において本件各著作物の占める割合は、本件各著作物の話数を総話数で除して算出すると以下のとおりである。そうすると、本件各著作物の閲覧話数は、前記イのサイト全体の閲覧話数に下記の割合を乗じて算出するのが相当であり、具体的には、別紙「損害額一覧表(裁判所認定)」の「本件各著作物の閲覧話数」の各原告欄記載のとおりと認められる。
      • 本件著作物1(46話) 0.037パーセント
      • 本件著作物2(141話) 0.114パーセント
      • 本件著作物3(1027話) 0.831パーセント
      • 本件著作物4(122話) 0.099パーセント
    • エ 損害算定の基礎とする閲覧話数 漫画の読者は、同じ話の読み返しをすることが知られているところ(乙171)、このような読み返しは、無償の海賊版サイトについても一定程度妥当するものといえる。そして、前記⑴イのとおり想定される配信料は1話ごとの個別課金であって、読み返しのためのアクセスが含まれていることを考慮し、損害算定の基礎とする閲覧話数については、前記ウの本件各著作物の閲覧話数の8割と認めるのが相当である。そうすると、損害算定の基礎とする閲覧話数は、同別紙の「損害算定の基礎とする閲覧話数」の各原告欄記載のとおりである。
    • オ 当事者の主張について
      • (ア) 原告らは、①本件調査の結果、本件各ウェブサイトの1アクセス当たりの平均ページビュー数が14.85であること、②漫画の単行本1冊を読むのに要する時間は平均1時間であり、特に海賊版サイトの閲覧者のコンテンツを読む速度が速いと考えられることなどを理由に、本件各ウェブサイトにおいて1アクセス当たりの閲覧話数が7話であると主張する。たしかに、本件各ウェブサイトへの1アクセス当たりの平均ページビュー数は14.85であると推計されるが(甲6)、トップページやランキングページなどのコンテンツそのもの以外のページの閲覧も含まれていると考えられるから、前記イの認定を左右するには足りない。また、海賊版サイトの閲覧者のコンテンツを読む速度が速いと認めるに足りる的確な証拠もない。
      • (イ) 被告は、SimilarWebについて、アクセス数及び平均滞在 時間が推計値にすぎないこと、30分を超えてから再度アクセスした場合に新たなアクセスとされることを理由に、SimilarWebの推 計値をもって本件各ウェブサイトのアクセス数及び平均滞在時間を認めるべきでないと主張する。SimilarWebによって算出されるアクセス数及び滞在時間は、1パーセントの利用者のデータから算出された推計値であり、複数のウェブサイトについてアクセス数の実測値とSimilarWebによる推計値とが異なっているとの指摘がされている(甲70、72、乙16 2、164、165、185〜187)。しかし、本件調査において、SimilarWebの推計値が現実のアクセス数と異なることを疑わせる具体的な事情は認められない。被告が、本件各ウェブサイトのアクセス数、ページの表示数及びキャッシュリクエスト数を把握しているにもかかわらず(甲87)、積極的に反証しないことをも考慮すれば、本件では、SimilarWebによる推計値を基準として、本件各ウェブサイトにおける本件各著作物の閲覧話数を認めるのが相当である。
  • ⑶ 著作権法114条3項に基づく損害額 以上によれば、著作権法114条3項に基づく原告らの損害額は、同別紙の「3項に基づく損害」欄各記載のとおりと認められ、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、同別紙の「弁護士費用」欄各記載のとおりと認められる。これに対し、被告は、原告らの出版権の侵害について被告に故意又は重過失がないこと、原告らの出版権の侵害に対する被告の寄与が限定的であることを理由に、損害額を減額すべきであると主張するが、被告は、被告サービスの提供を停止せず、被告サーバから本件コンテンツ及び本件キャッシュデータが自動公衆送信されていたものであり、被告の損害賠償責任を減じるべき事情は見当たらない。 
  • ⑷ したがって、原告らの損害額は、同別紙の「合計」欄のとおり、原告KADOKAWAにつき1億2140万0928円、被告講談社につき4億6755万7860円、被告集英社につき24億0974万0203円、被告小学館につき6億3742万2086円であるものと認められる。

8 小括

  • 以上によれば、原告らは、被告に対し、民法719条2項に基づき、原告KADOKAWAにつき1億2140万0928円、その余の原告らにつき、各損害の一部である各1億2650万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができる。なお、原告らは、被告によるミラノ通常裁判所の令和7年3月20日付け判決(乙203)の提出が時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張するが、証拠の提出が訴訟の完結を遅延させるものとは認められないから、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとはいえない。したがって、原告らの申立てについては、却下する。 

第4 結論 

  • よって、原告らの主位的請求はいずれも理由がないから棄却し、原告KADOKAWAの予備的請求は、1億2140万0928円及びこれに対する令和4年10月21日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の予備的請求を棄却し、その余の原告らの予備的請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。 
  • 東京地方裁判所民事第46部
    • 裁判長裁判官 髙橋彩
    • 裁判官 西山芳樹
    • 裁判官 瀧澤惟子
  • (別紙) 著作物目録
    • 1 題号 真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました
      • 著作者 A 
    • 2 題号 進撃の巨人
      • 著作者 B 
    • 3 題号 ONE PIECE
      • 著作者 C
    • 4 題号 ケンガンオメガ
      • 著作者 E、D
    • 以上
  • (別紙) 損害額一覧表(原告ら主張)
    • 1 原告KADOKAWA
      • A DMCA通知の受領 令和3年11月13日 
      • B 損害期間 令和3年12月14日〜令和4年2月 末日 
      • C 損害期間に閲覧された話数(全体) 54億3744万話 
      • D 上記Cのうち、本件著作物1の割合 0.037% 
      • E 損害期間に閲覧された本件著作物1の話数(=C×D) 201万1853話 
      • F 1話あたりの単価120円 
      • G 原告KADOKAWAの損害額(=E×F) 2億4142万2360円
    • 2 原告講談社
      • A DMCA通知の受領 令和3年11月13日 
      • B 損害期間 令和3年12月14日〜令和4年2月 末日 
      • C 損害期間に閲覧された話数(全体) 54億3744万話 
      • D 上記Cのうち、本件著作物2の割合 0.114% 
      • E 損害期間に閲覧された本件著作物2の話数(=C×D) 619万8682話 
      • F1話あたりの単価150円 
      • G 原告講談社の損害額(=E×F) 9億2980万2300円 52 
    • 3 原告集英社
      • A DMCA通知の受領 令和2年12月7日 
      • B 損害期間 令和3年1月8日〜令和4年2月末日 
      • C 損害期間に閲覧された話数(全体)192億2221万話 
      • D 上記Cのうち、本件著作物3の割合 0.831% 
      • E 損害期間に閲覧された本件著作物3の話数(=C×D)1億5973万6565話 
      • F 1話あたりの単価 30円 
      • G 原告集英社の損害額(=E×F) 47億9209万6950円 53 
    • 4 原告小学館
      • A DMCA通知の受領 令和2年4月7日 
      • B 損害期間 令和2年5月8日〜令和4年2月末日 
      • C 損害期間に閲覧された話数(全体) 213億4008万話 
      • D 上記Cのうち、本件著作物4の割合 0.099% 
      • E 損害期間に閲覧された本件著作物4の話数(=C×D) 2112万6679話 
      • F 1話あたりの単価 60円 
      • G 原告小学館の損害額(=E×F)12億6760万0740円 
    • 以上

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