はじめに
生成AIが普及しはじめています。生成AIによるトラフィックへの影響について考察します。ただし、日本の生成AI普及率は、AI先進国の半分程度であり、トラフィックへの影響はAI先進国に比べると小さいと思われます。
- 生成AIの個人利用は日本26%、米国・中国に後れ 情報通信白書
また、「AIトラフィック」という用語は、業界により異なる定義で使われており、注意が必要です:
- ネットワーク業界における「AIトラフィック」
- AIサービス自体のネットワークトラフィック
- Web業界における「AIトラフィック」
- AIサービス経由で流入したWebトラフィック
- 補足:Web業界において、「トラフィック」という用語は、一般的にWebトラフィック(全ネットトラフィックの4%程度)のみを指します。
ネットトラフィック全体のトレンドについては、以下の資料を参照ください:
トラフィックトレンド
Webトラフィック
生成AIは、トラフィック的な分類としてはWebアプリケーションの一つです。そのため、まずWebトラフィックの現状について確認します。
トレンド
以下の要因により、ユーザのWebアクセスは減少しています:
- AI検索:AIまとめ(AI Overview等)によりユーザのWebアクセスが減少
- ゼロクリックが63.5%まで増加:ユーザの検索行動において、ユーザがAIまとめだけで満足し、実Webサイトをアクセスしない行動
- 動画:文字から動画への媒体移行(特に若年層)によるアクセス減少
- もともと文字情報は、書籍に代表されるようにインテリ向け。文字ではなく動画や音声情報を好む人や状況が多い。
全トラフィックに対するWebトラフィックの比率は2022年において4.63%ですが、2025年におけるWebトラフィック比率は、動画トラフィックの伸びもあり、4%程度まで落ち込んでいいると思われます。また、AIトラフィックの特徴としてアップリンク比率が高いことがあります。これは、AI検索が対話的な処理であるためだと思われます。
また、Web業界定義のAIトラフィック(AIサービス経由での流入トラフィック)については、その伸び率は9.7倍と爆発的ですが、全流入トラフィックの1%にも満たない状況であり、まだまだGoogle検索からの流入の方が圧倒的に多い状況です。
ソース
- Sandvine:Web Browsingのトラフィックシェアは4.63%(2022)
- https://www.sandvine.com/hubfs/Sandvine_Redesign_2019/Downloads/2023/reports/Sandvine%20GIPR%202023.pdf
- 補足:2023年以降のレポートではWebトラフィック比率への言及無し(多分、減少している)
- Similarweb:Google経由の大手ニュースサイトへのアクセスが半減
- Values:ゼロクリック率が63.5%に達する
- Wikipedia:2025年4月からYoYで全アクセス数が8%減少
- Ericsson:生成AIトラフィックの下り上り比率は74:26(一般Webは90:10)
- Ahrefs:AI経由の流入リクエストは過去1年で9.7倍になるが、全体流入リクエストの1%未満
- Ahrefs:AI 経由のトラフィックは増加傾向、しかし、Google は依然としてその 345 倍という圧倒的な規模で優位を保つ
AIトラフィック
トレンド
生成AIトラフィックは3種類に分類でき、それぞれのトレンドは以下になります:
- 生成AI操作トラフィック:ユーザが生成AIを操作するトラフィック
- 1年で数倍程度には増えている
- ただし、トラフィックの絶対量は全体の0.06%程度
- 生成AI学習トラフィック:生成AIがWebサイト等から情報を収集するトラフィック
- 生成AI以外を含めたBotトラフィックが全Webリクエストの1/2程度まで増加
- 生成AI内部トラフィック:生成AIシステム内部のトラフィック(DC間トラフィック等)
- 生成AI以外を含めたDC間トラフィックは一般ユーザトラフィックの1/7程度
ソース
- Cloudflare:2024年2月1日から2025年3月1日までの1年間で、生成AIサービスへの月間トラフィックは251%増加
- Ericsson:生成AIによるトラフィックは全ネットトラフィックの0.06%
- (補足)Applogic:ネットトラフィックの分析レポートで有名です。しかし、2025年版におけるAIトラフィックの記述は、アプリケーション別(Gemini、Chat GPT、Copilot)の使用率のみであり、全トラフィックに対するAIトラフィック比率に関する記述はありません。
- Webトラフィックの半分以上はBot
- Cloudflare:2025年4月のBotトラフィックはYoYで32%増、ただし7月はYoY4%増
- 総務省:データセンター間等におけるデータ通信量の現状と見通し等に関する調査研究について、データセンター間接続通信量とインターネットトラヒックの比較
影響についての議論
Webサイト広告
個々のWebサイトにおける広告売上の減少が報告されています:
- Business Insider社は従業員の21%をリストラ。理由の一つは大幅なトラフィック減少
Web広告市場全体での市場縮小は、まだ報告されていませんが、今年あたりから数字として出ると思われます。
Web検索広告
検索サイトで表示されるWeb検索広告については、”AIまとめ”にも広告を出すことにより、従来レベルの成長が続いています。
- Google広告収益:Search広告はYouTubeと同等レベルの成長を続ける
一方、国内Yahooでは検索広告が減少し、ディスプレイ広告が増加しています。しかし、長期的には、グローバルなトレンド(検索広告:成長、ディスプレイ広告:縮小)に従うと思われます:
- Yahoo決算:検索広告はYoYで13.2%減、ディスプレイ広告は3.9%増
ネット全体におけるトラフィック爆発
生成AIトラフィックは、全ネットトラフィックの4%程度であるWebトラフィックの中での話なので、これが原因で大きなトラフィック爆発が起こるとは考えにくいですが、細かく見ていきます:
- 生成AI操作トラフィック
- 現状、生成AIのトラフィックは全トラフィックの0.06%程度であり、生成AIへの接触時間が100倍になっても全トラフィックの6%程度のインパクトしかありません。
- トラフィック爆発の可能性として、生成AI操作による動画生成がありますが、以下の理由でインパクトは小さいと思われます:
- 必要帯域:通常の動画視聴と同じ
- ユーザが動画生成する時間:一般的な動画視聴時間よりも圧倒的に少ない
- 生成AI学習トラフィック
- 全Webトラフィックの半分がAI Botだと仮定すると、全トラフィックの2.5%程度がAI Botのトラフィックとなります。ただし、ここのトラフィックは、情報の収集が目的であり、生成AIへのユーザ接触時間が100倍になっても増えません。また、Webサイト自体が今後減少していくと考えられるため、AI Botトラフィックは、大きくは増えないと考えます。
- 補足として、Webサイトを配信しているCDN事業者としてもAI Botによるトラフィック爆発というのは聞きません。
- また、動画に対するAI学習については、現状、表立っては行われていません。これは、テキストや画像に比べ、様々な意味(システム的、著作権的)で敷居が高いためです。ただし、今後、自作動画を生成AIに読み込ませることは一般化する可能性があります。この場合、ユーザ回線の上りトラフィックを増加させます。
- 生成AI内部トラフィック
- 前述のようにDC間トラフィックは、全ネットトラフィックの1/7程度です。このうちAI関連がどれぐらいの割合になるかは不明ですが、テキストや静止画関連のAI情報については、大した量は無いと思われます。
記事の検証
”AI トラフィック爆発”というキーワードで検索された記事の検証:
- 生成AI時代、爆増するトラフィック AIネットワーク化の到来
- https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/25/cienacorp0115/
- 元記事:「クラウドやモバイルデバイスなどの普及により、地球上の通信トラフィックが一貫して増大している。2022年ごろに登場した生成AIは、これに一層拍車をかけるだろう」
- 検証:現在のトラフィック爆発は動画視聴のネット化が原因です。そもそもの認識がおかしい。
- 生成AI経由トラフィック1200%増の衝撃
- https://note.com/shimada_g/n/n9226b98241f6
- 元記事:生成AI経由で小売サイトを訪れるユーザーがたった7ヶ月で12倍(+1200%)に激増
- 検証:小売りサイトのWebトラフィックが増えたわけではなく、トラフィックの流入元としてAI比率が12倍になっただけです(その分、検索からの流入が減っている)。
- トラフィック爆発時代のDCIの進化 大容量化とコスト・消費電力
- https://businessnetwork.jp/article/25905/
- 元記事:総務省の試算では、2024年の国内DCIの通信量は199EB(エクサバイト)。2033年には約5倍に増加すると見ている
- 検証:前述のようにDCI間トラフィックはユーザトラフィックの1/7程度です。これが5倍になったとしても、全トラフィックを1.7倍にする程度のインパクトしかありません。また、DC間のようなバックボーン系回線は、ユーザ系回線に対してビット単価が安く、経済的なインパクトは小さいです。
まとめ
2025年における、全トラフィックに対する生成AIのトラフィック比率は以下であり:
- AI操作トラフィック:0.1%以下
- AI学習トラフィック:2%程度
今後増えるとしても、生成AIのネットトラフィック全体への影響は小さいと思われます(所詮、テキストと静止画のトラフィックであり、増えても大したことはない)。結論として、生成AIによるネットトラフィック全体への影響は小さいと思われます。
ただし、生成AIは、ユーザのWebトラフィックをすでに減少させており、この傾向は今後拡大すると思われます。そのため、以下のような文字媒体であるWeb関連業界の市場規模は縮小します(減った分はストリーミング関連に移ると思います):
- Web広告、Web制作:インパクト大(直接的な需要が減る)
- ホスティング、CDN:インパクト小(AI Botトラフィックのハンドリングがあるため、広告等よりはインパクトは小さい)
可能性として、動画関連の生成AIによるトラフィック爆発が考えられますが、前述のようにインパクトがあるのは上り回線のみであると思われます(下りは通常の動画視聴と変わらない)。