漫画村Cloudflare問題についてのまとめ。敬称は省略させて頂きます。
<ショート版 by NotebookLM>
2026年2月5日開催のJaSEG勉強会で解説します
タイムライン
2022年訴訟以前
- 2010年
- Cloudflare、創業
- 2016年1月
- 漫画村、開設・当初はCloudflareの無料プランを利用
- 2017年3月29日
- Cloudflare、代理店経由で日本における販売を開始
- 2017年6月
- 漫画村、Cloudflareと有料契約
- 2018年4月16日
- 漫画家(たまきちひろ)、Cloudflareに対する情報開示を訴訟(地裁)
- 2018年4月17日
- 漫画村、接続不可能(閉鎖)
- 2018年4月17日以降
- Cloudflare、漫画村以外の著作権侵害サイトについて配信を継続
- ソース:2025判決文
- 出版社、引き続きCloudflareにCDNサービス停止等を要求する
- ソース:2025判決文
- Cloudflare、漫画村以外の著作権侵害サイトについて配信を継続
- 2018年8月
- Cloudflre、日本国内で日本人営業スタッフを雇用
- 補足:この前にも雇っていた可能性あり
- 出版社、Cloudflareに対し以下を実施
- 著作権侵害の通知
- 海賊版サイトに関するコンテンツ配信の差し止めを訴訟
- Cloudflre、日本国内で日本人営業スタッフを雇用
- 2018年10月
- Cloudflare、漫画家(たまきちひろ)の訴訟に対し「全面的に戦う」と答弁書を提出
- 2018年12月
- Cloudflare、新宿パークハイアットで日本顧客向けイベントを開催
- 2019年7月
- 星野路実以外の運営関係者、逮捕される
- 2019年7月7日
- 星野路実、フィリピンで拘束される
- 2019年9月24日
- 星野路実、日本へ強制送還され逮捕される
- 2019年12月20日
- 竹書房、Cloudflareに対し民事訴訟
- 2020年1月22日
- 漫画家(たまきちひろ)、Cloudflareに対する情報開示が棄却される(地裁)
- 2020年2月20日
- 出版社、2018年8月の訴訟についてCloudflareと和解していたことを発表
- https://hon.jp/news/1.0/0/28108
- https://web.archive.org/web/20220202035131/https://shuppankoho.jp/doc/20200220.pdf
- 補足:内容は「複製の中止」つまり、Cloudflareはキャッシュ配信を止めるが、海賊版サイトのオリジンからの配信を許すというもの
- 出版社、2018年8月の訴訟についてCloudflareと和解していたことを発表
2022年訴訟(2025年地裁判決)関連
注意:これ以降の星野路実に関する訴訟については、2017年~2018年の著作権侵害に関するものであり、2020年5月8日~2022年2月28日の著作権侵害に関する訴訟(2025年地裁判決)とは無関係。また、星野路実は、2019年9月~2023年9月の間、逮捕および服役されている。
- 2020年4月7日
- 出版社、本訴訟の対象となるウェブサイト(ウェブサイト1、ウェブサイト2)において著作権を侵害したコンテンツの配信を確認
- 小学館、CloudflareにDMCA Takedownを電子メールで送付(中島弁護士)
- 2020年6月4日
- 米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所、Cloudflareに対し小学館に関する運営者等の情報開示命令を発令
- Cloudflare、契約情報として開示したのは以下
- ウェブサイト1:国名のベトナムのみ
- ウェブサイト2:本件運営者とは関係のないビール倉庫
- Cloudflare、契約情報として開示したのは以下
- 米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所、Cloudflareに対し小学館に関する運営者等の情報開示命令を発令
- 2020年7月9日
- Cloudflare、日本支社開設
- 2020年10月
- 著作権法、リーチサイト規制が成立
- 2020年12月7日
- 集英社、CloudflareにDMCA Takedownを電子メールで送付(中島弁護士)
- 2021年1月11日
- 米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所、Cloudflareに対し集英社に関する運営者等の情報開示命令を発令
- Clodflare、契約者情報を開示するが内容は前回と同じ(ベトナム、ビール倉庫)
- 米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所、Cloudflareに対し集英社に関する運営者等の情報開示命令を発令
- 2021年2月2日
- Cloudflare、ウェブサイト1についてキャッシュサービス停止(オリジン配信モード)に切り替え
- 2021年6月
- 星野路美、福岡地裁で実刑判決(刑事):懲役3年、罰金1千万円、追徴金約6257万円、控訴せず確定
- 対象:2017年~2018年の著作権侵害 (2022年訴訟とは無関係)
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-92918.pdf
- 星野路美、福岡地裁で実刑判決(刑事):懲役3年、罰金1千万円、追徴金約6257万円、控訴せず確定
- 2021年11月12日
- KADOKAWA、CloudflareにDMCA Takedownを電子メールで送付(中島弁護士)
- 2021年11月30日
- 米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所、Cloudflareに対しKADOKAWAに関する運営者等の情報開示命令を発令
- Cloudflare、契約者情報を開示するが内容は前回と同じ(ベトナム、ビール倉庫)
- 米国カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所、Cloudflareに対しKADOKAWAに関する運営者等の情報開示命令を発令
- 2022年1月
- 出版社(大手3社)、星野路実に対し民事訴訟
- 2022年2月1日
- 出版社(大手4社)、Cloudflareに対し損害賠償を訴訟(2025年11月19日に判決が出たもの)
- 2022年3月10日
- Cloudflare、ウェブサイト2についてキャッシュサービス停止(オリジン配信モード)に切り替え
- 2022年3月16日
- Cloudflare、ウェブサイト2についてサービス提供を停止
- 2022年3月19日
- Cloudflare、ウェブサイト1についてサービス提供を停止
- 2023年9月22日
- 星野路実、服役を終え会見を開く。再審請求を行う意向を示す
- 2024年4月18日
- 星野路実、17億円超の支払い命令を受ける(地裁、民事)
- 2025年2月19日
- 福岡地裁、星野路実の再審請求を棄却
- 2025年11月19日
- 東京地裁、Cloudflareの損害賠償責任を認める
- 出版社、共同声明を発表
- Cloudflare、報道関係者向けに声明を発表
- 2015年12月4日
- Cloudflare、知財高裁に控訴
補足:キャッシュサービス停止(オリジン配信モード)
CDNサービスにおいて、配信をオリジンサーバとするモード。技術的には、配信サイトに対するDNS問い合わせに対する返答を、CDNのキャッシュサーバのIPアドレスではなく、オリジンサーバのIPアドレスとする。
関連法規
DMCA セーフハーバー (17 U.S.C. §512)
- 米国において通信事業者等が以下を実施することにより、著作権侵害等から免除される法律
- 通知を受けた後に「迅速に」削除等の措置を取り
- さらに「繰り返しの侵害者を終了する方針」を採用・合理的に実施
- 補足:コンテンツ等の削除要求はTakedownと呼ばれる
プロバイダ責任制限法
- 国内において特定電気通信役務提供者(CDNやISP等の事業者)の法的責任を調整する法律(正式名称、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)
- 損害賠償責任の制限
- 事業者が適切な手続(下の「送信防止措置」)に沿って対応した場合、権利侵害コンテンツの放置に対する責任を限定する
- 送信防止措置
- 権利者からの通知を受けた事業者は、それが明らかか相当の理由がある場合、該当コンテンツを削除できる(削除に対する法的責任を負わない)
- 発信者情報の開示
- 権利者からの通知を受けた事業者は、それが明らかか相当の理由がある場合、発信者の情報を開示できる(開示に関する法的責任を負わない)
- 損害賠償責任の制限
類似事例
MP3Skull事件
- 概要
- レコード会社が、MP3ファイルのリーチサイトを著作権侵害で提訴。その後、CDN等に対してもサービス提供を止めるように要求
- タイムライン
- 2015年4月
- レコード会社が提訴
- 2016年2月
- 裁判所がデフォルト判決(被告が出廷しなかった)、訴えを認める。
- ただし、被告は裁判所を無視し運営を続けた。
- 2016年?
- レコード会社がCloudflareに対し関連サイトの運用を止めるように提訴
- 2017年3月
- 地裁が大枠を認める
- 2018年3月
- Coudflareが2017年命令の無効化を提訴
- 裁判所がCloudflareの提訴を却下
- 2015年4月
Sci-Hub事件
- 概要
- 有料の科学論文を無料提供していたSci-Hubについて、このサイトにCDN等を提供していたCloudflareに対してサービス停止を要求
- タイムライン
- 2015年
- 出版社(エルゼビア)がSci-Hubに対して提訴
- 2017年6月
- 裁判所はSci-Hubに対して損害賠償を認める
- ACS(学会)がSci-Hubおよび関連会社に対してサービス停止を提訴
- 2017年11月
- 裁判所がSci-Hubに対して損害賠償と関連会社によるサービス停止を認める
- Cloudflareは提訴することなく受け入れる
- 2015年
Arista Recrods事件
- 概要
- Arista Records等がコピーサイトを提訴。これらのサイトにCDN等を提供していた Cloudflareに対してサービス停止を要求
- タイムライン
- 2015年6月3日
- 裁判所は差止がCloudflareにも及ぶと判断
- 2015年6月17日
- Cloudflareは命令修正(先回り的な防御は排除)を申し立て
- 2015年7月
- 裁判所が命令修正を認める
- 2015年6月3日
ALS Scan事件
- 概要
- ALS Scanが、自社写真を無断掲載した海賊サイトについて、その運用に関わったCDN等を寄与著作権侵害で提訴
- タイムライン
- 2016年7月
- 原告が提訴
- 2018年3月
- 地裁がCloudFlareが著作権侵害を支援しうるという可能性を示す
- 2018年6月
- ALS ScanとCloudFlareが和解(最終的な司法判断無し)
- 2016年7月
Mon Cheri Bridals事件
- 概要
- 権利者の写真を無断使用していた模造品サイトについて、このサイトをCDN配信していたCloudflareを寄与著作権侵害で提訴。
- タイムライン
- 2018年11月17日
- 原告が提訴
- 2021年10月6日
- 地裁はCloudflareの寄与侵害責任を否定
- 2021年12月27日
- 原告が控訴
- 2022年2月8日
- 原告が控訴を取り下げ
- 2018年11月17日
- 補足
- Cloudflareが「国際的な判例」としてあげたものだと思われる。
判決の概要
- 損害賠償対象
- ウェブサイト1(海賊版サイト)
- ウェブサイト2(海賊版サイト)
- 請求額
- 各出版社:1億2650万円
- 賠償期間
- 小学館
- 2020年5月8日~2022年2月28日
- 集英社
- 2021年1月8日~2022年2月28日
- 講談社、KADOKAWA
- 2021年12月14日~2022年2月28日
- 小学館
裁判所の判断
- 国際裁判管轄
- 日本である
- 不法行為の成否
- 主位的請求
- Cloudflareが自動公衆送信の主体ではない
- Cloudflareの行ったキャッシュデータの送信は、著作権法の特例(著作権侵害を問わない)には該当しない
- 予備的請求
- Cloudflareの賠償責任は制限されない(情プラ法による制限には該当しない)
- Coudflareが出版権の侵害幇助を認める
- 両請求に共通
- Cloudflareの行ったキャッシュデータの送信は、著作権法の特例(著作権侵害を問わない)には該当しない
- 主位的請求
- 賠償額
- ほぼ原告の主張を認める
- 講談社、集英社、小学館:1億2650万円 (請求額そのまま)
- KADOKAWA:1億2140万0928円 (請求額を若干減額)
- 補足
- 裁判所が認めた損害額は上記よりも大きい
- ほぼ原告の主張を認める
サマリー
争点1(国際裁判管轄の有無)について
- 本件における準拠法は、加害行為の結果が発生した地の法である日本法である。
- 日本国内のCloudflareサーバから日本国内のエンドユーザに対して自動公衆送信された。
- 本文
争点2-1(被告が自動公衆送信の主体に当たるか)について
- Cloudflareは自動公衆送信の主体とは言えない
- 自動送信の主体は、サーバに対しコンテンツを送信することができる状態を作り出す行為を行う者である。今回の場合、海賊版サイトの運営者が主体である。
- 本文
争点2-2(関係役務提供者として被告の損害賠償責任が制限されないか)について
- 賠償責任は制限されない(Cloudflareは免責とはならない)
- 以下の二つの条件を満たすため、制限されない
- 2号要件:Cloudflareは著作権侵害を知っていた
- 柱書要件:CloudflareはCDNサービス提供を止められた
- 以下の二つの条件を満たすため、制限されない
- 本文
争点2-3(被告が本件運営者による原告らの出版権の侵害を幇助したか)について
- Cloudflareは、原告らの出版権の侵害を幇助した
- 以下の理由により、幇助したと認められる
- 海賊サイトの運営者は、Cloudflareの利用により、大規模配信が容易になった
- Cloudflareは、サービス開始時における本人確認手続きを行わなかった。また、裁判所の情報開示命令に対しても、契約者(運営者)の本人確認を行わなかった。
- (争点2-2にあるように)Cloudflareは著作権侵害を知っているにも関わらず、CDNサービス提供を続けた
- 以下の理由により、幇助したと認められる
- 本文
争点2-4(本件キャッシュデータの自動公衆送信が電子計算機における著作物の利用に付随する利用として著作物を利用できる場合に当たるか)について
- Cloudflareの行ったキャッシュデータの送信は、著作権法47条の4第1項による権利制限の対象にならないため、出版権侵害の免責(適法化)にはならない。
- 判定ロジック
- 47条の4は、もともと無料配信(「主たる利用(閲読等)」に付随して不可避的・技術的に生じる利用について、著作権者に独立した対価回収機会を与える必要がない範囲)における権利制限を認める規定であるが、今回の場合は有料配信に該当する。
- 有料配信であっても、キャッシュへの保存は送信効率化のための不随的行為であり権利者の権利制限の対象となる。
- しかし、キャッシュからの配信は、閲読機会を増加させる“独立の利用行為”であり、著作権者に対価回収機会を与える必要があるため、送信効率化のための不随的行為とは言えず、権利制限の対象とはならない。
- 仮に、キャッシュからの配信が、権利者の権利制限の対象となったとしても、今回の配信は、上記対価回収機会が欠如しており「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当する。
- 参考:著作権法47条の4 および 第1項
- 電子計算機における利用(情報通信の技術を利用する方法による利用を含む。以下この条において同じ。)に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
- 1 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合において、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑又は効率的に行うために当該著作物を当該電子計算機の記録媒体に記録するとき。
- 電子計算機における利用(情報通信の技術を利用する方法による利用を含む。以下この条において同じ。)に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
- 判定ロジック
- 本文
争点3(原告らの損害の発生及びその額)について
<省略>
論点
国産CDNを作り運用していた者の視点として論点等をまとめます。
誤解の解消
大規模配信には国内にあるサーバから配信する必要がある
- CDNは、大規模配信を簡単にできる便利なサービスであり、海賊版サイトにおいても有効なサービスです。ただし、マンガ程度のイメージファイルであれば、米国等から配信しても大きな表示遅延は起きません。また、イメージファイルやHTMLはHTML Prefetch/Preloadにより先読みが可能です。この機能を使えばダウンロード待ちはありません。参考:マンガ閲覧(海外からの配信とプリロード)
- そのため、権利者側としては、国内にサーバが有るかどうかを論点にするのは危険です。今後、違法事業者は、日本以外から配信するCDNを利用する可能性があります。また、そのようなオプション(北米等のみから配信等)を持つCDN事業者も存在します。
- 補足:Cloudflareはエニキャスト技術を使っており、配信元地域を制限することは困難です。
CDNが違法コンテンツを配信すると損害賠償の対象となる
- 米国DMCA セーフハーバーもしくは国内プロバイダー責任制限法により、CDN事業者が侵害申告に対し適切に対応すれば、損害賠償の対象とはなりません。今回の判決は、この侵害申告に対する対応が不十分であったため損害賠償の対象となるというものです。
CDNサービス業者は配信内容を見ることができない
- 営業マンを介する契約の場合、CDN契約時において配信するサイトの報告が義務になっていることが多いです。そして、営業マンは、契約者やコンテンツをチェック(与信、反社)し、社内で契約稟議を通し、CDNサービス開始となります。
- オンラインサインアップ契約の場合、サービス開始時におけるコンテンツチェックはありません。また、顧客のCDN設定(どのサイトを配信しているか)についても、顧客の秘密情報扱いされていて、基本、CDN事業者が見ることはありません。ただし、権利者からの申告等があった場合、顧客のCDN設定を見ることができるような利用規約が入っていると思われます。そして、CDN管理者は配信されているサイトをチェックすることにより、コンテンツの確認が可能です。
CDNサービス業者が配信しているコンテンツを調べることは通信の秘密を侵す
- 通信の秘密に該当するのは、一般顧客とCDNサーバ間の通信のみです。CDN配信しているサイトをCDN管理者がアクセスし、そのコンテンツをチェックすることは通信の秘密には該当しません。
CDNはどのようなコンテンツでも配信できる
- CDN契約には違法コンテンツの配信は禁止という規約があります。また、アダルトコンテンツを基本的に禁止している(CDN事業者から許可を得た場合のみ配信可能になる)事業者も多いです。
この判決によりCDNサービスに影響がでる
- 一般的なCDN事業者の場合、利用規約に違反する配信が判明した場合、ヒアリングの後に事業部長権限ぐらいで迅速にサービスを止めています。そのため、この判決の影響はありません。
- ただし、オンラインサインアップ契約を利用可能なCDN事業者の場合、契約者の本人チェックを行っていません(そういうCDN業者を私は知りません)。これが強制となると、CDN(およびクラウド)業界に大きなインパクトを与えます。
Cloudflareは漫画村の違法コンテンツ配信で大もうけした
- 漫画村の配信量は月間10PB程度※だと思われます。これぐらいの配信量における配信単価はGBあたり0.2円程度であり、単純計算すると配信売り上げは月額200万円でしかありません。また、与信や料金支払いの問題もあり、売り上げ規模は、一般的なクレジットカードで先払いできる程度(200万円程度)だと思われます。CDN事業者にとっては大きめの案件ですが、大もうけというレベルではありません。
- 参考
- ※10PB論拠
- 213億4008万話(損害期間中に閲覧された全話数、原告予測) * 10MB(漫画1話あたりバイト数)/ 22か月(損害期間)
- https://bunny.net/pricing/cdn/ 表に出している値段で1PB以上の配信単価はGBあたり0.2セント。10PBとなるともっと低いところが実際のレート。
- ※10PB論拠
今回の日本の判決は国際的な判例と一致しない
- ここで国際的な判例(Cloudflareに対する寄与著作権侵害を却下)とはMon Cheri Bridals事件だと思われます。しかし、これは米国地裁レベルの判決(原告側の上告も無し)であり、国際的な判例というのはオーバーだと思われます。
敗訴を受けてCloudfareが日本から撤退する
撤退には以下の二つのパターンがありますが、どちらも無いと思われます。
- 営業所の閉鎖:現在、Cloudflareの日本営業所には100人近いスタッフが働いています(ソース:Linkedin)。この営業所の維持だけで年間10億円程度かかり、販管費率を25%とすると、国内で40億円程度は売り上げている計算になります。日本の営業所を閉鎖すると、この売り上げに影響がでます。簡単に日本の営業所を撤退するとは思えません。
- 配信拠点の閉鎖:Cloudflareのメイン顧客は北米企業(総額 約1,500億円程度)です。それら企業の日本配信に影響が出るため、日本の配信拠点を閉鎖する可能性は低いです。ただし、Cloudflareの配信対象は主にWebサイトであり、国内配信拠点が無くなったとしても(韓国あたりから配信出来れば※)、ユーザQoEの低下は少ないと思われます。
- ※日韓の国際リンクは「日本⇒韓国」は混みがちですが、逆の「韓国⇒日本」は一般的に空いています。
筆者コメント
メディア配信におけるサーバ分散配置
最近のネット状況として、バックボーンや国際回線の品質が向上しています。また、前述のようにHTML Prefetch/Preloadのような先読み機能がブラウザには実装されています。そのため、マンガのようなメディア配信において、サーバの分散配置による表示速度の改善は、実はそれほど大きなものではありません。最近のサーバ分散配置の効果としては、国際回線の節約という意味合いが大きいです。
このような状況にも関わらず、「国内サーバからの配信により海賊版コンテンツによる権利侵害が加速された」という人がネットワーク業界内部にも居ます。CDNやコンテンツ配信の素人なのに、知ったかぶりをする土管屋が多いのが日本の状況です。困ったものです。
キャッシュサービス停止措置後の損害賠償
Cloudflareは、2021年2月2日にウェブサイト1に関するキャッシュサービス停止を行っています。つまり、これ以降、Cloudflareは、ウェブサイト1に関して、権威DNSのホスティングだけを提供していたことになります。そのため、ウェブサイト1に関する2021年2月2日以降の損害賠償については、減額すべきです。ただし、本訴訟では、出版社が要求した損害賠償額が裁判所に認定された損害額よりも小さいため、キャッシュサービス停止による損害賠償の減額について議論が行われていません。モヤッとする結果です。
ネット業界としては、きちんと線引きをしてもらいたかった所です。さもないと、ドメイン事業者等についても、Takedown通知後のドメイン放置(削除しない)に対し、著作権侵害主犯並みの損害賠償を受ける可能性が残ります。
侵害幇助と賠償額
今回の判決で、CDNは、違法コンテンツの自動公衆送信の主体であることは否定されましたが、出版権の侵害幇助になりうるとされました。ただし、背景として、Cloudflareは、Takedownの受信後最低でも8か月間、キャッシュ配信を継続しており、しかたがないと思われます。
損害賠償額については、出版社の損害請求額(各社ともに1億2650万円)が損害額(約2億~40億円)に対して小さいものであったため、CDNの責任(幇助)に関する割合の議論がありませんでした。ただし、KADOKAWAの損害については請求額の約半分が認められており、これは侵害の主犯クラスに相当すると思われます。
また、CDNの配信単価(大規模)は漫画1冊(100MB)あたり0.1円以下であり、割に合わない商売という気持ちもありますが、社会インフラとして適正に運用すべきという指標には同感できます。
著作権法47条の4第1項(争点2-4)
Cloudflareは「著作権法47条の4第1項」(キャッシュを使った配信の効率化については著作権侵害としない法律)を盾に、免責を求めました(かなり無理筋)。これが、裁判所に論理的に否定された(有料配信されるべきコンテンツについては権利制限の対象とはならない)のは大きなトピックです(当たり前の結果ですが)。
オンラインサインアップ
CDNおよびクラウド業界への影響として最も大きいものは、オンラインサインアップの扱いになると思います。つまり、CDN、Webホスティング、クラウド等において、現状、使用開始時に本人確認を必要としないサービスが多いです。これは、言論の自由とも関係しますが、保持すべき枠組みだと思います。また、今回の判決においても、著作権侵害の判明後に詳細な身元調査を求めるような内容になっています。
そのため、本人確認なしでの利用開始、著作権侵害の判明後の厳密な身元確認もしくはサービス停止、という2段構えのフロー整備が必要になると思います。
今回判決の海賊版対策としての効果は?
何かと悪者扱いされるCloudflareですが、株式公開している企業であり、その時価総額は独立CDN事業者最大手であるAkamaiの倍ぐらいあります。つまり、Cloudflareは、海賊版対応について甘いところはありますが、真っ当な技術会社です。そして、今回の判決により、Cloudflareの海賊版対策は強化されると思います。
一方、グローバルには中小CDN会社がいくつか存在します。今後、海賊版運営については、そちらに移る可能性が高いと思われます。また、そのような会社は日本における営業拠点はなく、「日本以外の国からCDN配信」が可能かもしれません。そのようなCDN会社に対して今回の判例は通用せず(前提である国際裁判管轄が海外になります)、新たな対策が必要になります。
CDNの運用はどうあるべきか?
マンガ1話のCDN配信料は0.002円(10MB*0.2円/GB)程度であり、月額100万円もあれば、結構な数(月間5億話分)の配信が可能です。つまり、CDNは、犯罪者にとっても強力なツールとなりえます。それを踏まえた運用や法整備が必要です。また、関連法規については、足りない部分は正していくべきです。
例えば、米国のDMCAは、もう少しCDNに対して強めの規則に変えた方が良いと思います。今回の判決に含まれる「侵害通知から1か月以内に対応しなければ侵害幇助」というのが妥当なラインだと思います。ただし、メージファイル1個に対する侵害通知に対しても対応する必要があるため、CDN側の負担が増加することは確かです。侵害のレベル別(サイト全体が海賊版、イメージファイル1個の侵害等)の対応基準が必要になると思われます。これらついては、実際のTakedown申請数をベースに議論する必要がありますが(営業マンを経由するCDN案件の場合、もともとサイト運用者や連絡先が明示されているサイトがほとんどであり、CDN側に連絡が来ることは殆ど無く)、私は良く知りません。オンラインサインアップ契約でサイト連絡先も無いような怪しいサイトにおいて大きな問題になると思われます。
一方、前述のようにサービス開始時における身元調査は、言論の自由の文脈で、現状維持(緩い運用)が望ましいと考えます。また、Takedown(削除)要求の「著作権侵害以外の適用」については、重要度が高く判別が容易である「チャイルドポルノ」以外については反対します。
参考文献
- 海賊版サイト対策:CDN事業者からの視点
- 2018年10月10日、海賊版サイトブロッキングについて考えるシンポジウム
- https://www.slideshare.net/slideshow/pirates-cdn/119050135