なぜ25年間無視していたIPv6に本気なのか?


なぜ、私(CDN屋)は25年間無視していたIPv6に本気なのか?

IPv6と私

私は、 20年ぐらい前まで、NTT研究所で働いており、IPv6組と呼ばれるグループに属していました。ただし、私自身は、IPv6をガン無視しつつ、CDN関連の研究開発を行っていました。この理由としては、IPv6の付加価値は「アドレス空間が広い」ぐらいしかなく、しかもIPv6はIPv4と互換性のない「新しいプロトコル」であり、「IPv6は下手すると普及しない夢物語」であると思っていたせいです。私は、NTT研究所を退社した後も、ネット&メディア業界に約20年席を置いてますが、IPv6に対する立ち位置(ガン無視)は大きく変わりませんでした。

なぜIPv6?

しかし、ここ最近は、徐々に「IPv6やんなきゃ」という感じに変わってきました(先月は、人生で初めてIPv6サミットにも参加しました)。この理由として最大のものは:

  • アクセス網のIPv6化が進んできた。2019年の時点で、米国で5割、国内でも2~3割程度のリクエストがIPv6になっています。つまり、IPv6対応のサーバを立てると、国内でも2~3割は既にIPv6です。この時点で、「ちょっと本気で考えなきゃ」という気になってきました。

そして、「考えなきゃ」と思っているときに

  • IPv6(網)の方が早い(プロトコルの話ではなく、IPv4とIPv6の網構成とそれぞれのキャパシティ実装の結果として、現状ではIPv6を使った方が早い)

という噂が流れ始め、本腰を入れ調査を始めました。速度調査の結果としては、以下のようなものとなり:

  • 夜間:IPv6 > IPv4
  • 昼間:IPv4 > IPv6

有意な速度差が計測されました。つまり、時間帯により、どちらのプロトコルを使うかという「工夫」が必要ですが、確実にIPv6を使った方がパフォーマンスが上がるという結果です。そしてこの「工夫」の所で、CDN事業者の本領(複数のXXXを使い、最大のパフォーマンスを上げる)を発揮できると考えるようになりました。つまり:

  • Web系だと、「昼間はIPv6をオフにし、夜間だけIPv6をオンにする」
  • ストリーミング系だと、「プレイヤーサイドマルチCDNにより早いプロトコルを優先的に使う」

というような、配信事業者ならではのテクニックにより、Internetをより快適にできると思うようになりました。そして、クラッシックなCDNは複数のサーバをうまく使う技術でしたが、現在の配信技術は、複数のビットレートを上手く使い分けたり、複数のアプリケーションプロトコルのをうまく使い分けています。この延長として、今後は複数のIPスタック(IPv4とIPv6)を使い分ける技術も、配信技術の一要素になると思っています。また、IPv4 IPv6のデュアルスタックは、少なくとも10~20年ぐらいは継続し(IPv6の普及には25年かかりました)、この複数のIPスタックを使い分ける技術は、重要であり続けると見ています。

2019年は変革点

現実的なビジネスの視点でIPv6を見ると、この数年は大きな変革点だと思います。つまり、日本のアクセス網IPv6普及率(良いデータが無いのでAkamaiのアクセスに対するIPv6率で代用)は、まだ2~3割ですが、米国ではすでに5割程度となっています。そして、キャズム(新技術が一般化するための最大の関門、 普及率16%)という視点でみると、 日米ともにアクセス網のIPv6率はこの関門を超えており、今後の主流はIPv6となりそうな勢いです。そして、日本も、数年遅れで米国を追いかけるという典型パターンに乗っています。実際に、国内においても(非公式ですが)トラフィック量ベースでは、IPv6がIPv4と肩を並べたという話も聞くようになっています。そして、明確にIPv6が主流であるというデータが正式に表に出てくるのも時間の問題だと思っています。

一方、Webサイトの国内IPv6化率は、数パーセントという状況ですが、米国のWebサイトIPv6率はこの数倍であり、WebサイトのIPv6化率についても米国の後追いになるとみています。つまり、この数年で数倍程度のIPv6化が進みそうです。また、普及率数パーセントというのは、丁度、イノベータ(技術オタク)からアーリーアダプター(先進ユーザ)への変革期というビジネスを仕込みやすい時期でもあります。「やるなら今」という時期です。

最後に

以上のように、主に普及率と(IPv4とIPv6) デュアルスタック の恒常化をドライブとして、私はIPv6に注目しているのですが、これ以外にも以下のような視点がマーケットでは騒がれています:

  • ゲーマー:ゲームに勝つにはIPv6(早く安定している、 余計な処理(PPP、CGNAT)が無い)
  • IoT:IoT機器にアドレスを割り振るにはIPv6(センサーなどの機器にグローバルなIPv4アドレスを割り振れる余裕は無い)

という感じで、IPv6は、ユーザの普及率がキャズムを超え、その他の視点においても注目されています。ちょっとこれは、「本気でやんなきゃ」という最近です。

補足:IPv4 IPv6速度比較

継続して速度比較を行っています。ご協力をお願いします(IPv6のみでアクセス可能なサイトです)。

http://ipv6.jpcdn.jp/


コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です